- Text
- Source
つの丸のふがふがDog Days 第4回 仕事を休んで取り戻した人生
つの丸
1970年5月27日生まれ。漫画家。代表作はアニメ化もされた「みどりのマキバオー」など。保護犬たちと暮らしている。

長いことろくに仕事もしないで3匹の元保護犬フレンチブルドッグに囲まれのんびり暮らしている休筆中(仕事キャンセル界隈)の私ですが、この「ビーパル」の連載も4回目。ありがたいことに気楽にやらせてもらっていて仕事復帰へのいいリハビリとなっております。そもそもなぜ休筆してるのかというと理由は大きく2つ。ひとつは肉体的、精神的な限界。睡眠不足とストレスでぶっ壊れそうだったのです。そしてもうひとつの理由が「犬」。
20年ほど前「たいようのマキバオー」というマンガの連載を始める直前、わが家に1匹のフレンチブルドッグを迎えました。名前はドン・コルレオーネ(通称ドンちゃん)、大好きな映画『ゴッドファーザー』の大ボスから取ってつけました。当時JR、私鉄、地下鉄の3線が乗り入れる駅の徒歩0分のマンションに住み徒歩5分のマンションに仕事場を構えていた私。車も自転車も人通りも多く、その一方公園は少ないという環境。さらに駅近なのにドンは電車の音が大嫌いと……。
「便利だけどドンと暮らす街じゃないな」
ドンを迎えたことをきっかけにつの丸家の暮らしは一変! 駅0分のマンションを売っ払い、静かで公園の多い街に移り住みました。ドンとの生活を見据え「犬も楽しく暮らせる家」を幼馴染の建築士に設計してもらい、通いだった仕事場もドンといっしょにいられるように家の地下に。執筆中はあまりかまってやれなくても休憩がてらドンと散歩に行き、原稿あげた休日にはドッグランや海や川に出かけ私の趣味のSUPも一緒に楽しむ生活に。ドンは出かけるのが大好きで好奇心旺盛、肝が据わっているので何をするにもどこへ行くのも一緒でした。愛犬というより親友でした。
それでも週刊連載はハードで、7年8年と長く続くにつれ仕事のペースに余裕がなくなり休日なんてものが次第になくなっていきました。入院したりもして体力的にも精神的にもギリギリになっていきドンと同じ屋根の下に暮らしながらも楽しく遊ぶ時間は減っていきました。
そうして連載の完結が見えてきたころ、気がつけばドンも10歳を超えたシニア犬になっていました。まだまだ元気に走り回っていたけど、それがいつまでも続くわけもない。
仕事場に向かおうと家のソファから立ちあがろうとすると、察知して立たせまいとひざの上に体重をかけてくるドンちゃん……。さみしそうにしているドンちゃんを仕事場に連れていったりもしました。連れていったところで退屈なだけなのに。
「この連載を終えたらドンちゃんとずっと一緒に過ごそう。ドンが元気なうちにもっといっぱい遊んでやりたい! そしてドンの最期を看取るまで新たな仕事も始めない!」
そう決めました。
何年先のことかはわからないけどドンが今際のきわに「締切が……」とか「ネームが……」みたいなことは考えたくない、最期はずっと添い寝をしてさみしい思いをさせず送りたい。そんな思いでした。
そうして10年ほど続いた連載を終え、新たな仕事は取らず『ドンちゃんとずっと一緒の生活』が始まったのです。
好きなだけ散歩して好きなだけ昼寝して、ドッグランにドッグカフェ、海行って川行って湖行って。
ドンが楽しそうにしている姿を見るのは嬉しくこっちまでハッピーだ! ドンのために仕事やめる決断をして本当によかった、これならきっとドンも長生きしてくれるだろうと思いました。長生きしたら私の無職期間も長くなっちゃうけど大いに結構! なんなら私まで長生きできそうだ。ドンとの生活を始めてからちょっと体調がいいのだ。いや、ちょっとではない!
毎日睡眠不足で地下の仕事場で座りっぱなし、締切に追われるストレスフルな生活から、毎日よく寝てお日様浴びてしっかり歩き回りかわいいドンの姿に癒やされ趣味のサーフィンを楽しむ生活に変わったのだから。
ドンのために仕事やめているつもりでいたけど実はドンのおかげで自分の健康を取り戻していたのです。
本当にドンちゃんには感謝。
そんな素晴らしい生活に新たな仲間が加わることになったのはその後すぐでした。「ふがふがれすきゅークラブ」からブリーダー放棄の片目のフレンチブルドッグを急遽迎えることになったのです。奥さんから「どうかな?」とLINEで相談され写真も見ず「いいよ」と即答しました。初めての保護犬でどんな犬かも把握せず受け入れを決めましたが無責任に受け入れたわけじゃありません。「成犬からの躾は難しいのでは」とか「人間嫌い犬嫌いだったらどうしよう」とか多少の不安もありましたが仕事もせずただ犬と一緒に暮らすだけの生活をしている身ですから、もうひとり増えたところで問題なし! 躾やら多少のトラブルもとことん向き合う時間がある! それにもっと賑やかになってドンも遊び相手がいりゃ楽しかろうと。そうして迎えたのが現在わが家の長兄ピートくんなのです。
実際、家庭犬としての経験がないピートくんはトイレも散歩も何もできませんでした。それでもさほど躾に苦労はしませんでした。全てドンが手本を示し教えてくれたのです。ピートくんは「ああすればおやつ貰えるのか!」とドンのマネをすることであっという間に立派な家庭犬となったのです。
こうしてドンのおかげで幸せな生活を手に入れた私とピートですから、ドンが亡くなった今もドンからもらったこの生活手放すわけがないでしょう。ロッコやチッチ、一時預かりの子たちにもこの幸せは渡していかねばならんのです!
以上仕事がめんどくさい言い訳でした。

ドン・コルレオーネ
2006年に我が家にやってきた最初のフレンチブルドッグ(♂)。いつも一緒に出かけて遊ぶ、つの丸の親友。泳げないけどSUPは好き。

まだ週刊連載をしていたころの仕事場。原稿の前で退屈そうなドンちゃん。

教育係・ドンちゃんのおかげで、すぐに新しい暮らしになじんで安心しきってるピートくん。
どんなときも一緒に遊ぶ!

外遊びが大好きで怖いもの知らずだったドンちゃん。いつも一緒に遊び回りました。

※文・イラスト・写真/つの丸
(BE-PAL 2025年10月号より)







