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    2021.07.26

    狩猟女子はじめました 〜獣害をきっかけに狩猟の世界に飛び込んだ〜

    シカやイノシシが人里に降りてきて、農作物を荒らす「獣害」が日本各地で問題になっている。静岡県御殿場市に暮らす池田さんも被害に遭ったひとり。その直後に地元猟友会の門を叩く。猟友会にまったく縁のなかった女性が狩猟を始めた理由と、猟友会の活動についてお伝えする。

    猟友会の仲間が仕留めたシカ。

    猟友会に入会したきっかけ

    池田:2019年の秋のことです。収穫を目前にした自宅の畑や花壇をイノシシにやられてしまいました。収穫を心待ちにしていたサツマイモも全滅です。私だけじゃなく、近所の皆さんもやられていました。いわゆる、獣害です。ホントにショックで、許せない! という怒りがふつふつと湧いてきたんです。

    春に花が咲く球根もほじられてしまい、悔しくて泣いてばかりの毎日を過ごしていたという池田さん。夕方の暗闇に目が光るイノシシに遭遇すると、怖さより怒りが増してくるようになり、「町をなんとかしなきゃ!」と思い立ち、行動に出た。それが猟友会入会へとつながっていく。

     池田猟友会との接点がなかったので、市役所で教えてもらった猟友会・会長の自宅を訪ねました。そして、その場で意気投合というか、「私、入会します」と即答してしまいました(笑)。

    イノシシに荒らされた池田さんの花壇。

    農水省の統計によると、2019(令和元)年の獣害による被害総額は約158億円。被害面積は約4万8000ヘクタールに及ぶほど、獣害は全国的に深刻な社会問題になっており、御殿場市に限った話ではない。

    池田:友人が、「被害に遭って悔しいなら、罠の免許を取ってみたら?」と背中を押してくれました。また、母に相談すると、私の祖父が商売をしながらハンターもしていたことを教えてくれました。

    それにしても、女性ひとりで地元の猟友会の会長宅に訪れ、入会してしまうとは驚きの行動力だが、自身の中にハンターの血が流れていることを実感した池田さんにとって、狩猟を始めるきっかけは身近に転がっていたのかもしれない。

    突然の訪問を受け入れたのは、静岡県駿東猟友会御殿場支部長の大池信也さん。1948年生まれの大池さんは娘ほどの年齢の池田さんの“弟子入り”を受け入れ、御殿場支部の仲間たちとともに教育が始まる。

     狩猟免許取得は何から始めるのか?

    かつては通信会社に勤めるサラリーマンだった大池会長は、狩猟していた職場の人から宿直の休憩時間にジビエ料理を焼いて食べさせてもらう。それが、とても美味しくてねと、頬を緩める大池会長だったが、いつか自分で狩猟したいと願い、60歳定年後、北海道にエゾシカを狩猟するためにライフル銃の免許を取得したのが狩猟生活の始まりになる。

    池田さんとの目的意識の違いに苦笑いを浮かべていたが、狩猟するためには何から始めたらいいのだろうか?

    狩猟免許の種類

    狩猟免許は狩猟法に則り、免許を取得するためには都道府県が行なう試験に合格する必要があり、猟法に応じて、網猟免許、わな猟免許、第1種銃猟免許、第2種銃猟免の4種類に区分されている。

    狩猟免許の取得を目指す

    狩猟試験のテキスト『狩猟読本』。

    池田さんは翌年に行なわれる試験に向けて、静岡県猟友会主催の狩猟免許予備講習を受講する。

    池田:300ページに及ぶ狩猟読本を教科書に、座学と実技があります。私はわな猟免許取得を目指していたので、罠の掛け方などを学び、実地訓練として2回行ないました。1回目は獣道での罠の掛け方を学び、2回目は罠にかかっている鹿を仕留めて、運搬しました。

    大池:わな猟免許に比べて、猟銃免許となるとハードルはグッと上がります。

    スラック・ライフル射撃の訓練

    大池:猟銃免許は難しい。警察に届け出る必要があり、受理されにくい傾向にあります。また、警察の指導として射撃訓練が年に2回以上必要で、ガンロッカーを備え、銃と玉は別に保管しなければなりません。その抜き打ち検査があるほどで、銃を所持するわけだから身元調査もあったりでね、クリアしなきゃいけないことがたくさんあるんです。

    スラック・ライフル射撃訓練。

    いよいよ、罠を仕掛け、仕留める

    2021年、晴れてハンター1年生となった池田さんだが、実は、まだ一度も仕掛けた罠で掛かったことがないという。

    早く成功体験を積んで欲しいから、掛かりやすい場所を選んでいるんだけどね」と大池さんは笑い飛ばすが、先輩たちのアシスタントとしてシカを仕留めて、運搬し、さばくところまでは体験している。

    池田:罠の見回りも必ず複数人で行くのですが、「やっとできる!」というワクワク感と、独特の緊張感がありました。でも、足手まといにならないようにと必死でしたね。怖いとか腰がひけるような感覚を覚える暇がなかったというか。

    80kgの大型のオスジカが罠にかかっていた。作業は、シカを落ち着かせて暴れないように目を覆うことから始まる。これは肉が硬直し、肉質が落ちてしまわないようにするためでもある。先輩たちは手慣れた様子で準備をし、トドメをさした。

    慣れた手つきでさばいていく猟友会の皆さん。

    池田:「市民のため」という使命感があって、命が絶えるまで直視していました。先輩たちの手慣れた作業を見ながら、可哀想とか感情移入する時間はなかった。シカが暴れると下手すれば自分たちがやられることもあるので、集中した状態というか、「淡々と」がしっくりするかな。

    池田さんが猟友会に入会した理由は、獣害への怒りと、同じように苦しむ人たちのために何とかしたいという気持ちが初動だった。その使命感に突き動かされ、この一年半、駆け抜けてきた。

    池田:今年中に1頭は仕留めたい。一人前になりたいという気持ちが強いです。

    自宅の畑がイノシシに荒らされ、怒りと使命感に突き動かされたひとりの女性が、猟友会という馴染みのない組織の門をたたいた。池田さんの活動をきっかけに、若い世代が興味を持ち、高齢化が問題となっている猟友会に新しい風を吹かせてくれることを期待する。

    猟友会会員の証であるジャケットと帽子姿の池田さん。

    池田瑠美(いけだ・るみ)
    御殿場出身・社会福祉士
    箱根駅伝での”山の神”往路優勝を現地で見たことをきっかけにトレイルランニングを始めるも、学生時代の体育は「1」。衝動的な行動力が取り柄。

     大池信也(おおいけ・しんや)
    静岡県駿東猟友会御殿場支部長
    通信会社に勤めるサラリーマンの定年後、エゾジカを狩猟するためにライフル銃の免許を取得。猟友会の高齢化に悩みながら自立した組織作りと世代交代を目指している。

    私が書きました!
    フリーライター
    山田 洋
    スポーツジャーナリスト/デザイン制作会社のプロデューサー/ラジオパーソナリティ・MC/編集者兼ライター など、7つの顔を持ちたい人。落ち着きのない仕事感をごちゃっとカバンに詰めて、雨のちハレの精神で生きています。 水瓶座のAB型/海と山の鎌倉在住/トレイルラン歴14年/最近、農業にハマっている孤独好きな寂しがり屋。https://note.com/h_yamada/n/nd106b937568d

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