上野公園にある国立科学博物館で開催中の企画展『風景の科学展 芸術と科学の融合』に行ってきました!
写真家・上田義彦の撮影した世界各地の風景写真を展示、それを国立科学博物館の研究者が解説し、ときに対象物とともに展示する――そんな、ちょっと変わった企画展が開催されています。“芸術と科学の融合”などと言われるとちょっと難しそうですが、それってどういうこと? さっそく潜入してきました!
企画を手掛けたのはグラフィックデザイナーの佐藤卓さん。「ロッテキシリトールガム」も「ロッテミントガムシリーズ」も「明治おいしい牛乳」もISSEY MIYAKEのブランド「PLEATS PLEASE」のグラフィックデザインも「首都大学東京」のシンボルマークも「ほぼ日」のロゴマークも、そしてあのEテレ『にほんごであそぼ』のアートディレクションも! この人の仕業。2012年に国立科学博物館で、同じ上田義彦写真&佐藤卓企画という組み合わせを実現させた『縄文人展 芸術と科学の融合』に続く第二弾がコレです。そこにはどんなビックリが!? 期待感が募ります。
“芸術と科学の融合”ってなに?
「デザインはいろいろなものをつなぐ仕事。いま芸術と科学は分けて語られますが、それを“つなぐ”ことがデザイナーに出来るのでは?と。風景を科学の視点で見る、その目をつくるきっかけになれば」と語る佐藤さん。はて、どういうこと? 軽く首を傾げつつ会場へ足を踏み入れます。
まず最初に、夜の東尋坊を撮影した真っ暗な海の写真がどん! と入り口の中央に置かれています。まるで暗い陰影を緻密に塗り重ねた油絵のような写真。夜の海の底知れなさ、そこで蠢く何者かの気配までが感じられるような、不思議な余韻を放っています。「こんな写真もあるのか……」、まずは写真を芸術として鑑賞し、ふむふむと味わっていると、脇に国立科学博物館植物研究部の辻彰洋さんの解説文が。
「海中の動物プランクトンは昼間には深いところに生息し、夜になると海の表面近くに浮かんでくる。これは海の表層にはエサとなる植物プランクトンが多いものの、天敵である魚なども多いため。食べられてしまわないよう昼間は光の届かない海の底で過ごし、夜になるとエサを食べに上昇してくる」
すると写真を見て「何者かが蠢くよう」と感じたのには、キチンとした科学的根拠があったということか! “芸術と科学の融合”が、一瞬でバチっと理解できた気になりました。
右脳と左脳の混乱の果てに。
なるほど! と次の写真へ。まず解説文を読んでから写真を観ると、なんだかうまく頭が働きません。写真を作品として鑑賞するレベルに集中出来ず、解説文を読んでから写真を観て、ただ確認するだけの作業になってしまいます。博物館へ来て、いろいろと学ぶような姿勢になっているというか。これが佐藤さんのいう「芸術と科学がわけて考えられている」ということ?「いまは科学的理解が必要」と脳みそが勝手に判断し、「芸術鑑賞的脳みそ」はとりあえずお休みしてしまったのかも。
それではなんとももったいない。上田義彦(桐島かれんさんのご主人!)さんの写真は単なる記録ではもちろんなく、ひとつひとつがそれぞれの方向に展開された作品なので、じっくりと鑑賞する奥行きを備えています。そこでまず最初の1周目は写真を芸術作品としてじっくり鑑賞し、次に解説文を読みながら写真や対象物を確認し、最後にもういちど写真を観る。会場を3周したころには最初とは違った“目”が自分の中に育っている事に気づくでしょう。この展覧会を観るにはそれがいい! たいした発見をした気になりましたが、それは会場の冒頭、佐藤さんのあいさつに既に書かれていました……。さてみなさんの目は、上田さんの写真になにを見るでしょうか?
企画展『風景の科学展 芸術と科学の融合』
●会場&会期:国立科学博物館日本館1階企画展示室、9月10日~12月1日
●主催:国立科学博物館
●企画:佐藤卓
●写真:上田義彦
取材・撮影/浅見祥子