キノコの学校 第二講 “森のトイレ掃除屋さん” ナガエノスギタケのユニークすぎる生態 | 自然観察 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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  • キノコの学校 第二講 “森のトイレ掃除屋さん” ナガエノスギタケのユニークすぎる生態

    2018.12.22 キノコの学校

    日本人が“謎”を解明したキノコ

    ナガエノスギタケというキノコをご存じだろうか。“長柄の”という名がつくほど、地中深くまで柄が伸びているのが特徴だ。長いものでは、地上部と合わせると、50cmほどに達することもあるという。

    まだ若いナガエノスギタケ。傘は、はじめはまんじゅう型をしているが、開くと15cm前後に達する。食用になるという人もいる。

     興味深いのはその生態である。千葉県立中央博物館でキノコを研究する吹春俊光さんがこう解説する。

    「ナガエノスギタケは、地中にあるモグラ類やトガリネズミ類の古いトイレの跡から発生し、別名“モグラノセッチンタケ”とも呼ばれます。モグラ類が残した排泄物を栄養分として吸収し、深い地中から地上に運び出しているのです。“森のトイレ掃除屋さん”とでもいうべき存在ですね」

    ナガエノスギタケは、1700年代にヨーロッパで発見され、広く知られていたキノコだ。ところが、柄の先にトイレの跡がある事実が発見されたのは、発見から200年以上を経た、1976年のことだった。しかも、発見者は日本人なのである。

    「現在、大分県在住で京都大学名誉教授の相良直彦先生がツルハシとスコップでひたすら穴を掘ってみたところ、モグラの巣を発見したのです。相良先生はその後も100例ほど根気強く穴を掘り、1978年、80年と論文にまとめて、キノコとモグラの巣の関係を明らかにしました」と、吹春さん。

    博物学の先駆者であるヨーロッパ人ですら気づかなかった謎を、地道な調査で解明した日本人、お手柄である。

    根元を掘ると、長~~~~い柄が出現するナガエノスギタケ。柄の先端はモグラのトイレ跡まで達する。右に見える穴は巣の本体だ。

    森の中をキレイにしてくれる!

    モグラは世代を超えて同じ場所に住み続ける生態がある。人間に例えると、定住に近い生活スタイルと言っていい。そのため、トイレ掃除屋さんがいなければ、巣がゴミ屋敷のように汚れてしまうのだ。

    「ナガエノスギタケは栄養を独占できる一方、モグラは巣の掃除をしてもらえます。まさに共存共栄といえる良好な関係を築いているのです」

    吹春さんの解説を聞くと、キノコとモグラ、両者がどのようにして出合うのか、興味がわく。モグラは地中にあるキノコのそばを好んで、巣を作るのだろうか。あるいは、キノコがモグラの巣を発見するのだろうか。

    「私もわかりません。ただ、興味深い点は、ナガエノスギタケはコナラやミズナラなど、ブナ科の樹木とも共生関係を築く点です。したがって、モグラが多いはずの畑には発生しないのです。モグラはもともと森で生活する動物。森の中で暮らしながら、キノコと樹木との三者の間で、深い関係を築くようになったのでしょう」と、吹春さん。

    分解が完了するとキノコは発生しなくなる。代わりに、放出された胞子が、あるいは運ばれていった菌糸が、次なる古いトイレ跡を探して長い旅に出るのだ。

    キノコは自然界の中で“分解者”といわれる。すなわち、不要になった落ち葉などを分解し、土に還す働きをしている。人間社会でトイレが必要なように、森の中にもまたタヌキやキツネなどの“糞場”がある。こうした土壌を浄化するキノコは、森の環境を維持するために欠かせない存在といえよう。

     環境を浄化するキノコあれこれ

    動物の糞から発生するキノコは多い。ツヤマグソタケは、その名の通り馬糞を分解するキノコで、牧場などで発生しているのをよく見かける。また、焼け跡菌類といわれるヤケアトツムタケは、焚火の跡から生える。熱で微生物の環境が変化した焼け跡の土壌を、微生物がまた住めるように修復してくれるのだ。

    吹春先生は、こうした働きに目を向けると、キノコがより愛おしい存在になると話す。

    「人知れず森を掃除しているキノコは、本当に働き者だと思います。人間にとって猛毒のキノコでも、落ち葉を分解したり、植物と共生するなど、自然界では重要な役割を担っているのです」

    キノコは森の中ではちっぽけな存在にしか見えないかもしれない。しかし、森の植物の多くは、菌類と共生する関係を築いてきたのだ。キノコがいなければ、森そのものが生きていくことができないのである。

    菌類無くして、豊かな森は実現できない。ナガエノスギタケは、森の環境を整える重要な役割を担っている。

    取材・文/山内貴範
    監修・写真/吹春俊光(千葉県立中央博物館)

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