老舗ベーカリーが食パンの耳でビール造り! Better life with upcycleが手がけるアップサイクルのつながり | サスティナブル&ローカル 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.12.05

    老舗ベーカリーが食パンの耳でビール造り! Better life with upcycleが手がけるアップサイクルのつながり

    パン製造80年以上の歴史をもつ会社が食パンの耳を原料にビールを造り始めた。毎日、大量に廃棄されるパンの耳を何とかしたいという長年の願いが、畑違いのビール製造につながった。食品を捨てたくないメーカーの思いが詰まっている。神奈川県海老名市で創業100年、栄屋製パンのBetter life with upcycle(ベターライフウィズアップサイクル)を取材した。

    左から「Ripe Strawberry Ale」(ストロベリーエール)、「IPA」、「Bread Crust」(イングリッシュペールエール)、「American Wheat」(アメリカンウィートエール)、「Sakekasu Ale」(ホッピーエール)。中央の3つが定番。

    パン重量の4割が耳だった

    市販のサンドイッチのパンには耳がついていないものが多い。パンの耳はどこへ? ほとんど廃棄、あるいは飼料になっている。食パンに占めるパンの耳は重量比で約4割。実に4割の材料が出荷されていないことになる。

    栄屋製パンは1923年、神奈川県海老名市に和菓子店として創業した。戦後、1947年からパン製造を開始。食パン、業務用のパン製品、給食用のパンなどを製造する地域ベーカリーとして知られる。

    主力製品のひとつがサンドイッチ用の食パンだ。

    「日本では食パンの耳を切り落とし、白いパンの部分に具を挟んだものが圧倒的に多い。日本特有ですね」と話すのは、パン製造に30年以上携わる、栄屋製パン専務取締役の吉岡謙一さんだ。

    毎日、パン製造の現場を見てきた吉岡さんにとって、大量のパンの耳が台車に積み上げられている光景は見慣れたものだった。しかし、これを何とかしたいという思いは、パンの道に入ってからずっと持ち続けていたという。

    「みんなが一生懸命つくった食パンの、重量にして4割が社会的評価を受けずに捨てられていく。それを毎日、大量に生産している工場って何なんだろうと、忸怩たる思いはずっとありました」

    栄屋製パンでは一日に300〜500kgものパンの耳が発生する。20年ほど前から近所の畜産農家に引き取ってもらっている。

    「他に使い途がないか考えつづけてきましたがなかなか……」

    ラスクなどのお菓子にして販売したこともあった。しかし、「もともと捨てるものだったんだから安くてもいいでしょ、という受け止め方が普通です。でも、手間をかけて加工しているのだからそれも違うなと」

    “アップサイクル”という概念がまだ広がっていなかったこともあるが、“ダウンサイクル”にしかならないもどかしさがあった。

    食パンのパンの耳。栄屋製パンでは毎日数百キロの耳が。

    ウチほどブルワリーに適したパン屋はない

    廃棄パンを原材料にビールづくりをしている海外事例はあった。イギリスにそうしたブルワリーがあることを、吉岡さんはネットの記事で知っていた。取り寄せて飲んだこともある。しかし、パン一筋の吉岡さんにとってビールは畑違いに見えていた。

    ある晩、静まった工場の中でパンの耳が積み上がった台車を見たとき、ハタと気づいた。

    「毎日、均一の品質の原料が大量に生産されている。もしかして、ウチほどビール造りに向いているパン屋はないんじゃないか?」と。

    コロナ渦中の2021年のことだ。ビール造りのことは何もわからない。吉岡さんは日本中のクラフトビールブルワリーにメールを送った。

    「パンの耳があります。力を貸していただけませんか。」

    返信があったのは横浜、新潟、金沢の、3つのブルワリーだった。

    パンの耳を提供して、各ブルワリーにレシピ作成から依頼し、出来上がったビールを全量引き取った。こうしてOEMでパンの耳をアップサイクルしたビールづくりが始まった。

    2021年当時、日本で廃棄パンを使用していたブルワリーはごく少ない。しかも定期的にとなると、AJB(長野)の「BREAD」くらいしか思いつかない。

    そんな中、3つのブルワリーは技とオリジナリティを駆使し、3社3様のビールを仕上げてくれた。

    「同じ原材料を使っても違った味わいが出来上がる。クラフトビールって面白いなと思いました。麦同士の相性のよさを感じましたね」と吉岡さん。

    大麦と小麦の違いはあれど、パンとビールは酵母を入れて発酵させ、熟成させる工程も似ている。また、畑違いの素人にも快く力を貸してくれるブルワリーのオープンな風土にも惹かれた。

    出来上がったビールを東京都内のある展示会の「アップサイクル」コーナーで発表したところ、想像以上に大きな反響を呼んだ。

    この頃、“アップサイクル”という言葉は「有効活用」や「利活用」からちょっとアップグレードした注目ワードのひとつだった。「SDGs」の後押しもあっただろう。

    それまで吉岡さんひとりで進めていたアップサイクルビールづくりに手応えを得て、海老名市の地域ベーカリーはブルワリー事業Better life with upcycleに踏み出した。

    すべてのビールにパンの耳を投入

    2024年2月、海老名駅から1.5kmほどの所にある元倉庫を改造し、Better life with upcycleのブルワリーがオープンした。ちなみに本社栄屋製パンは海老名駅を挟んで向こう側にある。

    仕込みが行なわれる日に取材に行った。ブルワリー内には、そこはかとなくパンの香ばしいにおいが漂う。

    Better life with upcycleの最大の特徴は麦芽の仕込みにパンの耳を投入することだ。

    一般的に、小麦を使うビールは「ヴァイツェン」や「ブロンシュ」、あるいは単に「白ビール」などと呼ばれるスタイル。白濁し、ちょっと甘い香りやバナナ香などフルーティな香りを特徴とする。

    しかし、Better life with upcycleでは白以外のスタイルにもすべてパンの耳を投入する。定番は「Bread Crust」「American Wheat」「IPA」の3つ。この中でいわゆる白ビールはAmerican Wheatだけだ。

    仕込み釜にパンの耳をざくざく投入!

    ヘッドブルワーの伊藤将広さんにパンの耳を使うことで生まれる特徴を聞いた。

    「小麦特有の濁りや酸味に加え、パンの耳には塩分が1%含まれ、苦味を引き立たせるミネラリーさがありますね。IPAやピルスナーには通常は小麦原料を使いませんが、パンの耳を加えることでキレのいいライトな味に仕上がっていると思います」

    記者も試飲したが、American Wheatには爽快さが、IPAにはシャープな苦味を感じた。

    パンの耳の特徴を最大限活かしているのが、その名も「Bread  Crust」だ。麦芽量の20%をパンの耳でまかなう。麦芽由来とパンの耳由来のトースト香、カラメル香を感じる飲みごたえのある一本だ。このビールに使うパンの耳は特別に焼きを加えて香ばしさを増している。

    Bread Crust用に焼きを加えたパンの耳。こんがりサクサク、食べてもおいしい!

    「焼き加減の違いで最終的にビールの味わいに差が出るので、いろいろな焼き加減を試行中です」

    原料にパンの耳を加えることで、他にどんな影響があるかたずねると、

    「小麦はグルテンを含むのでドロッとしてきます。温度ムラが出ないように仕込み中にかきまわす回数は多くなりますね。釜から麦芽カスをかき出す時も通常より重いです」

    仕込み後に出る「麦芽カス」は業者に引き取ってもらい、飼料に再利用されている。パンの耳が入っていることで通常の麦芽カスよりも栄養価が高く、その分、商品価値も高くなる。

    「今、試行しているのが麦芽カスをパンの原料に再利用することです」と伊藤さん。すでにいくつか試作品があり、味や食感の点で改良の余地あり、という段階に来ているそうだ。

    麦芽カスがパンの原料になる? それで食パンが作れたら。その耳がビールになって、その麦芽カスがまた食パンになって……とアップサイクルの環ができる。

    以前は大阪のブルワリーで働いていたという伊藤さん。地元の神奈川県に戻るにあたり、ブルワリーの就職先を探していたところ、Better life with upcycleの求人を見つけた。

    「10年、20年先のビール造りを考えたときに、サスティナブルの視点は絶対必要になると思って応募しました」と入社動機を語る。

    「パンの耳を使うことで生まれるビールがある。それが確信できたので、これからもっといろいろ試していこうと思います」

    ブルワリーの玄関前で吉岡謙一さん(右)と伊藤将広さん。ブルワリーではビールの小売もしている。看板にDistillngとあるように今後クラフトジンも手がける予定だ。

    「無駄にしたくない」気持ちがつながっていく

    自社ブルワリーが稼動すると、各地の生産者から声がかかるようになった。たとえば、同じ海老名市の武井いちご園から規格外のイチゴが持ち込まれた。「なんとかなりませんか?」

    愛媛県の伊予柑の生産者からも連絡が来た。有機農法で栽培しているが有機認証の基準は厳しく、収穫の数割がハジかれる。「なんとかなりませんか?」

    今年11月には、京都府のハチミツ専門店ミールミィとのコラボで、経年により廃棄されるハチミツを利用したビールが生まれた。その名も「Honey & Bread」。まるで朝食に出てきそうなビールである。

    Better life with upcycleでは定番の3種のほか、こうした材料をアップサイクルしたビールを醸造している。

    「つくったものを捨てたくない気持ちは生産者なら誰にでもあり、“無駄にしたくない”気持ちでつながっている気がします。食べたり飲んだりして喜んでもらえる人がいて初めて製品は完成するものですからね」(吉岡さん)

    工場であれ農地であれ、食品をつくる人の気持ちに通じるものがあるのだろう。

    「パンの耳をなんかしたいと思っていたらビールを造っていたというのがホントのところです」と話すように、Better life with upcycleも栄屋製パンもビールだけにこだわるつもりはない。

    PCF(Product Carbon Footprint)という製造から消費までにかかるCO2排出量を公表しているのも、サスティナビリティを考える意識の表われだ。ビールが消費者の手に渡り、缶が処分される「消費」まで視野に入れている点が興味深い。

    「ウチのPCFが特に低いわけではありません。ただビール業界のひとつのベンチマークに使えってもらえればと思い公表しています」

    つくった食品は捨てたくない、捨てられたくない。Better life with upcycleは生産者として当たり前の感情を土台に生まれて来た。食品や衣類、家具などなど、アップサイクルでつながれる業種の裾野は広い。酒販免許を持っているBetter life with upcycleならアップサイクル業界のプラットフォームになれるのではないか。次に何がアップサイクルされるのか楽しみにしたい。

    こちらもパンの耳のアップサイクル。塩味のきいたラスクはサックサック、ビールのつまみにピッタリ! 6本セットの箱には、写真よりも小さいが1袋おまけでついてくる。

    ●Better life with upcycle 神奈川県海老名市下今泉1-19-13
    https://upcycle-beer.com

    佐藤 恵菜さん

    ライター

    ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@DIMEでも仕事中。

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