【写真家・丹葉暁弥さんに聞く:前編】 シロクマが集まってくる町、カナダ・チャーチルの魅力とは? | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル - Part 2
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    2016.02.03

    【写真家・丹葉暁弥さんに聞く:前編】 シロクマが集まってくる町、カナダ・チャーチルの魅力とは?

    シロクマ

    ――そして、その後はほぼ毎年のように……。

    丹葉:最初は、シロクマを撮りに通い続けるつもりはなかったんです。ほかにもいろんな動物を見たいと思っていたので。ただ、シロクマの場合は僕にとって特殊で、帰りの飛行機の中でもう次の年に戻ってくることを考えはじめていて……それのくりかえしなんです。行くのが当たり前というか、自然になってしまいましたね。

    ――ところで、このチャーチルという町には、なぜシロクマたちが毎年集まってくるんですか?

    丹葉:シロクマは冬になって海が凍ると、氷上で子供を産むアザラシを食べるために陸地から海に向かいます。ハドソン湾で最初に海が凍りはじめるのが、チャーチルのあたりなんですよ。たくさんの河川が集中して流れ込んでいるので、塩分濃度が低くなって、凍りやすいんです。それで、海が凍りはじめる時期になると、シロクマたちがたくさん集まってくるんです。

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    ――チャーチル自体はどんな雰囲気の町なんでしょう?

    丹葉:人口1000人ほどの小さな町で、見渡せる範囲内にあって、二階建て以上の建物はありません。内陸から道路はつながっていないので、訪れる方法としては飛行機か鉄道です。チャーチルに定期便で飛んでいるのは、50席くらいの小さな飛行機ですね。シロクマ観察のシーズン中は、町のホテルはほとんど全部旅行会社による予約で何年も先まで埋まってしまっているので、特に最近は、ツアー以外で個人でふらっと訪れてシロクマを見に行くという旅は難しいと思います。

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    ――町からシロクマを観察に行く方法は? 車ですか?

    丹葉:旅行会社のツアーに申し込んで、大型のバギーに乗っていくバギーツアーに参加する方法が一般的ですね。バギーの上からシロクマを安全に観察できるんですよ。経験のない人が、現地で車を借りて郊外を回るというのは無謀だと思います。車はスタッドレスタイヤでもない普通のピックアップトラックとかですし、よほど冬の道の運転に自信のある人でないと。道路状況も、一度ブリザードが来てしまうと、路上の吹き溜まりがすごいんです。それにはまってしまった時に脱出する方法を判断できないと、命にかかわります。本当に、誰も通りがかったりしませんから。

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    ――チャーチルの町にもシロクマは現れますか?

    丹葉:出てきますね。自分も何回も見ています。家から家への移動は車が基本ですね。昼間はまだいいんですが、夜は特に危険です。現地の人は、自宅にも車にも、鍵をかけないんですよ。誰かがシロクマに遭遇しても、すぐに避難できるように。

    ――それはすごい習慣ですね……。丹葉さん自身は、どんな風にして滞在されているんですか?

    丹葉:自分は最初の頃からの馴染みのB&Bがあって、時期が近づくと「今年はどうするの?」という連絡が来たり、到着した時に部屋がなくても「こっちを使っていいから」と言ってもらえたりしています。防寒具やブーツも全部向こうに置いてあるんです。撮影に出かける時は自分で車を運転して回って、シロクマを見つけたら、車の中から撮影します。

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    ――シロクマが集まるような場所ですから、きっと寒いんでしょうね……。

    丹葉:その時期は思ったほど冷えないんですよ。マイナス20~30℃くらい。日中に日が射していれば、マイナス10~15℃くらいかな。

    ――いやいやいや。十分すぎるくらい寒いと思いますよ。

    丹葉:あの地域は2月頃になると、マイナス40℃以下になりますから。身体的には、マイナス10℃以下なら何℃まで下がっても同じだと思っちゃいますね。自分の場合、撮影中は車のエンジンを切って、窓も全開にしています。カメラや三脚は素手では持てませんが、厚手の手袋だと操作できないので、薄手のフリースの手袋をはめて、普段は上着のポケットに手を入れておくようにしています。ただ、旅行会社のバギーツアーに参加する場合は、車内は暖かいので、そこまで極端な防寒具は必要ないと思いますよ。

    ――ずっとチャーチルに通い続けていると、町の人たちにもすっかり顔を覚えられているのでは?

    丹葉:友達が増えましたね。町自体小さいですし、レストランやパン屋さんもみんな顔見知りで。これだけ何度も通っていると、向こうもまったく驚きも何もせず、「おう」という感じ。帰る時に「来年、また来るの?」とすら聞かれなくなってしまいました。あの土地の空気感に、自分が合っているんでしょうね。自然があって、シロクマがいて、夜はオーロラが出て、一日中、時計を気にせずぼーっとできて。あの町に通っているうちに、「好き」から「気に入った」になってきているのかな。あそこに行くのは、旅なんだけど、旅じゃない、そんな感覚です。

    次回のインタビュー後編では、この地域に生息するシロクマの暮らしぶりと、人間との関係、そして環境の変化によってシロクマたちに迫る危機について、引き続き丹葉さんにお話を伺います。

     

    丹葉暁弥 Akiya Tamba
    北海道釧路市出身。自然写真家、シロクマ写真の第一人者。幼少の頃から釧路湿原の大自然の中で、風景や野生動物を撮影していた。1995年、どうしても野生のペンギンに逢いたくて南極へ渡航。以後、1998年にカナダ北部で野生のシロクマに逢って以来、その魅力に取り憑かれて、ほぼ毎年彼らに逢いに通いはじめる。自然保護活動をしながら、地球や動物たちの未来について、メディアや雑誌などへの寄稿や、全国で講演などを行っている。
    『HUG! friends』『HUG! earth』『HUG! today』(小学館)
    Facebook https://www.facebook.com/photographer.tamba/
    Blog http://akiya.blog.so-net.ne.jp/

    【写真家・丹葉暁弥さんに聞く:後編】

    聞き手:山本高樹 Takaki Yamamoto
    著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年3月下旬に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々』の増補新装版を雷鳥社より刊行予定。
    http://ymtk.jp/ladakh/

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