【写真家・吉田亮人さんに聞く:前編】バングラデシュのレンガ工場で気づいた、人間が働くことの価値と美しさ | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル - Part 2
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    2016.03.23

    【写真家・吉田亮人さんに聞く:前編】バングラデシュのレンガ工場で気づいた、人間が働くことの価値と美しさ

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    ——そんな状況の中で、どんな風にして撮影に取り組んでいったんですか?

    吉田:最初は詳しい下調べはせずにノープランで行って、とにかく自分で街を歩いて、街の空気を吸って、身体をなじませてから、自分の気の赴くままに現場に入っていこう、と考えていました。相当いろんな職種の人たちの働いている現場に入り込みましたね。短い場所で1日、長い場所では1週間くらい。首都のダッカだけでなく、地方にも足を伸ばしました。取材を続けていると、だんだん、現地でいろんなつながりができてくるんですよね。バングラデシュは人と人同士のつながりがすごいので、彼らが自分のコネクションや情報を僕に提供してくれるんです。

    ——実際にいろんな現場に入り込んで撮影をしてみて、どうでしたか?

    吉田:造船所とか、お茶の工場とか、いろんな場所に行くたび、すごい光景が本当にたくさんあったんです。まるで宝箱を開けるように、こんなのもあった、あんなのもあった、みたいな。そういう場面にカメラを向けていると、自分の気持や体調のことを忘れて、無心になって被写体に向き合うことができました。撮影の間は、とにかく楽しかったです。ただ、最初の滞在ではそこまでテーマを深く掘り下げてはいなくて、まずは自分自身がバングラデシュと相性が合うのかどうかを確かめるための取材でした。

    ——相性、合いました?

    吉田:それまでに訪れたどんな国よりも、自分に合っていると思ったんですよ。現地の人たちの温かさ、人なつこさや、あの国のエネルギー……何というか、今の日本では到底考えられないエネルギーのようなものが渦巻いていて、それが自分の撮影のモチベーションとすごく合致したんです。とにかく疲れるんですけど、ああ早く日本に帰りたいなあとも思うんですけど……それでも「残りの日数、がんばって集中して撮ろう!」という風に思える国なんです。

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    ——それで、その後の取材でバングラデシュを訪れた時に取り組んだのが、後に写真集『Brick Yard』にまとめられた、レンガ工場での撮影ですね。この取材はどういうきっかけで?

    吉田:最初にバングラデシュに行った時は雨季だったんですが、ダッカ郊外の平野にあるたくさんのレンガ工場は、雨季の間は全部水没していて、煙突だけがぴょこぴょこと水面から出ている状態なんです。初めて水面から突き出ている煙突を見て不思議に思って、現地の人に聞いたら、乾季になって水が引いたらあそこでレンガを作りはじめるんだと聞いて、びっくりして。それで、半年後に再びバングラデシュを訪れた時に、そのレンガ工場を撮りに行きました。4日間、工場に泊まり込んで、従業員の人たちと一緒に過ごしながら撮影をしました。

    ——レンガ工場での滞在、大変でしたか?

    吉田:大変じゃなかったですよ。楽しかったです。レンガ工場は埃がものすごいので、おろしたての新品だったカメラとレンズが一気に全部埃まみれになってしまいましたけど……もういいやと思って。汗と埃でどろどろになりながら、撮影をしたり、一緒に飯を食ったり、そういうのも何かいいなあと。

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    ——それはすごい……。

    吉田:その頃から、取材の仕方や相手との接し方も、何となく自分なりにいい具合がわかってきたんですが、一番はっきりしてきたのは、写真との向き合い方、考え方ですね。もう少し簡単な言葉で言うと、自分自身の哲学みたいなものが少しずつ芽生えてきたというか。最初はとにかく「働く人を撮って、働くって何だろうみたいなことを考えよう」という感じで場当たり的に撮っていました。2回目のバングラデシュ取材からは、よりはっきりと自分のテーマが見えてきたので、ピンポイントでそこに落とし込めるように思考が変わっていったと思います。写真の撮り方だけでなく、セレクトや編集の仕方も、考え方一つで変わりますよね。当時は写真家になって3年目くらいでしたけど、ちょうど一区切りというか、自分自身の中でそれまで重かったペダルが少しずつ回転しはじめたような時だったと思います。

    次回のインタビュー後編では、吉田さんが取材に取り組んできたバングラデシュの皮なめし工場で働く人々の状況や、一見遠い存在に思える彼らと私たちの社会との関わりについて、引き続きお話を伺います。

    【写真家・吉田亮人さんに聞く:後編】

    吉田亮人 Akihito Yoshida
    1980年宮崎市生まれ。京都市在住。滋賀大学教育学部卒業後、日本語教師としてタイの大学に1年間勤務。帰国後、小学校教員として京都市にて6年間勤務し、退職。2010年より写真家として活動開始。2014年12月、初の写真集『Brick Yard』を発行(私家版・限定200部)。コニカミノルタフォトプレミオ2014年度大賞、Paris Photo – Aperture Foundation Photobook Award 2015ノミネート、日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015ピープル部門最優秀賞など受賞多数。2016年春、写真集『Tannery』を発行予定。
    http://www.akihito-yoshida.com/

    聞き手:山本高樹 Takaki Yamamoto
    著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年3月下旬に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』を雷鳥社より刊行。
    http://ymtk.jp/ladakh/

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