シベリア伝説のハンター、デルスウザラに学ぶ自然暮らし ~ 動物との暮らし編 ~

2019.04.01

写真/茶山浩

10数年前、私はシベリア・バイカル湖の凍った湖を犬ぞりで旅をした(バイカル湖は面積31,494㎢。琵琶湖の約46倍で日本列島本州よりでかく、透明度40mという世界一の透明度を誇る湖)。

バイカル湖は面積31,494㎢。琵琶湖の約46倍で日本列島本州よりでかく、透明度40mという世界一の透明度を誇る湖。写真/茶山浩

マイナス30度の氷の上を、しなやかに力強く走るシベリアの犬達の勇壮な姿と息づかいは、今でもしっかりと記憶の中で躍動している。

写真/茶山浩

写真/茶山浩

写真/茶山浩

この強靭な犬達は、人間とともに極寒のタイガ(針葉樹林帯の森)に暮らし、ときには多くの人命を救ってきた。

今から100年以上も昔、未開の極東地域の調査遠征を行なった探検家ウラディミール・アルセーニエフと、ガイドを務めたナナイ族の猟師デルスウザラも、犬たちに助けられながら過酷な冒険を完遂させたのだ。

(アルセーニエフとデルスウザラについては、「シベリア伝説のハンター、デルスウザラに学ぶ自然暮らし・焚き火編」をお読みください)。

極東探検隊と、彼らの旅を支えた犬達。

右がアルセーニエフ、左がデルスウザラ。デルスウザラは極東タイガ(針葉樹林帯の森)に住むツングース系の少数民族、ナナイ族(ウデヘ族との説もある)。

極東の探検家、ウラディミール・アルセーニエフ(1872~1930)は、博物学者でもありシベリア植物の多くの種を書き記した最初の人物とも言われている。晩年、ハバロフスク博物館の館長をつとめた。

じつは、アルセーニエフは無類の犬好きだった。自宅で何匹も犬を飼い遠征にも同行させ、極東地域の犬の調査にも力を注いだ。とくにナナイやウデヘなど少数民族の犬に興味を持ち、数多くの貴重な資料を残した。それらは今でも東シベリアの動物学者たちのバイブルになっている。

ウデヘ族の犬。生い立ちなど詳しい点は不詳。かなり古くからシベリア極東地域に根付いている地犬らしい。東シベリア原産のライカ犬種のひとつと考えられ、「アムールライカ」「ウデヘ犬」「ナナイ犬」などと呼ばれている。

1939年には極東地域の犬の調査探検が大々的に行われた。写真はそのときの犬の撮影風景。

東シベリア原産のライカ犬種のひとつ、イースト・シベリアン・ライカの切手。シベリアの犬、逞しい!

多くの学者が注目したのが、東シベリアの犬の飼育方法だった。その歴史は古く、石器時代にまで遡る。

古代の犬は主に食用と宗教儀式(シャーマニズムの生け贄)のために家畜化されていたが、その後、狩猟や物資の運搬などを行なう作業犬として飼育されるようになる。

中でもデルスウザラが暮らすアムール川流域(ナナイ族やウデヘ族の集落)で、犬の飼育繁殖が盛んに行なわれた。

アルセーニエフが撮影したとされる、ウデヘ族と犬のスナップ。

飼育が盛んだった理由のひとつはサーモンの産卵河川が集落の近くにあり、十分な量のドックフードが得られたことだ。

アルセーニエフは著書『シホテアリニ山脈』にこう記している。

「冬の旅行を計画する際に、最も重要な問題はドックフードだ。それは先住民族によって収穫されたユコラ(干した魚)の量に左右される。したがって長い道のりで私たちは残念ながらたくさんの犬を連れていくことができなかった。そり1台につき3匹ほどの犬が助けてくれた」

サーモンなどの魚を刻んで干した少数民族の伝統食、ユコラ。犬にも同等のものを与えていたという。

さらに驚くのは、近隣の少数民族がまだ犬を食用としていた時代に、ナナイやウデへはいち早くソリにつなぐハーネスやリードの製造に着手したこと。

ハーネス素材の鹿革(アカシカやヘラジカ)が豊富にとれたことや、もともと革をなめす技術に優れていたことも、犬の飼育を容易にした。

宗教儀式に使われた古代の人形もリード付き。

ウデヘ人と、ハーネス犬(ソリを引く犬)。

この地域の犬ぞりは「アムール・ナルタ(ソリ)」と呼ばれ、2~3匹の犬で引く小型で軽いソリ(通常は6~15頭)。猟師はこのナルタに乗ってイノシシを追いつめ、槍でしとめる。

アムール・ナルタは雪に覆われた倒木の上にも乗り上げても、滑らかに下りられるように前後が上に反り曲がっているのが特徴。小型で回転性がよくスピードが早い。狩猟のほか、荷物運搬もすべてこのソリで行なう。

ナナイ人たちは猟が終わり獲物や荷物を運搬するときになると、犬の負担を軽減するためにソリから降りて、犬と一緒にそりを引き歩いた。

狩猟を終えて家にもどるナナイ人達。

狩猟犬は野外で餌付けするのが一般的だった時代に、ナナイの人々は度々猟犬を家の中に入れ、自分より多くの量の餌を与えたという。

「デルスはいつも犬に最も美味しい骨や肉の最高の部分を与えていた。遠征に行く際は、家の中で最初に餌をやり、残り物を自分で食べた」(アルセーニエフ手記より)

とくに遠征隊のアリバという名の犬がお気に入りだったようだ。

「遠征から帰ると、アリバは長旅に疲れ果てて冷えきっていたため、焚火のそばに座り目を細め、居眠りをしていた。デルスはそんなアリバを哀れんで、毎回自分が靴を脱ぐ前に、アリバにもエゾマツの枝葉と枯れ草を地べたに敷いてやった。近くにその材料がない場合は、自分のジャケットまで譲ってやるので、行軍休止の折りは、アリバはいつもデルスを探し求め、彼の周りを飛び回ったり、前脚でじゃれかかったりして、何とか気を惹こうとする」(著『デルスウザラ』より)

冬期、雪が深いときはスキーを履いてイノシシ猟をする。

ちなみにウデヘ人たちは、大型の山猫(シベリアオオヤマネコと推測)の飼育も長年試みて失敗しちゃったらしい。

「ハーネスつけると暴れるし家の物を壊すしひっかかれるし、一生なつかない」とアルセーニエフにぼやいていたそうだ。

シベリアオオヤマネコ。

猫好きの人のために少々、逞しいシベリアの猫も。

あ~逞しい!

アムールトラ(シベリアトラとも)。ロシアと中国東北部の国境を流れるアムール川やその支流のウスリー川周辺のタイガに主に生息している大型の虎。アムールトラは、タイガに暮らす民が最も崇拝する神的存在。虎への怖れから信仰したと思われるが、デルスも虎を「アンバ」と呼び崇拝していた。

あっ! これは焚火のそばから離れない軟弱な我が家の猫(うふふ?。焚火猫については「ブレイクタイム動画・新年の焚火猫」をお読みください。うふふ?)

「デルスは、犬も虎も、火も水も薪も、すべて「人」として考えていた。タイガに住む生き物すべてを尊び敬意を払い、その中から生きていくために必要な動物だけを狩猟し食べて暮らしていた。だからこそ、ほんのひとかけらの肉も皮も骨も、決して無駄にはしなかった。命の重さを何よりも大切にしていたからだ」(アルセーニエフ手記より)

「命の重さ」を何よりも大切にしていたからだ。

「デルスのように自然の中でたったひとり暮らしている人間、自然をとても大事にし、尊敬し、怖れも持つ。今、世界の人々がいちばん学ばなければならないところです」

次回は「循環型自然暮らし・ダーチャの生活」です。お楽しみに!


写真/茶山浩

ババリーナ裕子

かつてサハラ砂漠をラクダで旅し、ネパールでは裸ゾウの操縦をマスター。キューバの革命家の山でキャンプをし、その野性味あふれる旅を本誌で連載。現在は房総半島で自然暮らしを堪能している。執筆構成に『子どもをアウトドアでゲンキに育てる本』『忌野清志郎・サイクリングブルース』『旅する清志郎』など多数。

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