にっぽん刃物語「炭焼き職人の金箭」~最も鈍角な刃物、それは楔である~

2019.07.10

刃物の持ち主
足助屋敷炭焼き職人
近藤三郎さん
叔父は足助でも名を知られた炭焼き名人で父親も炭焼き。山に入ったり炭を焼いているときが至福の時間だという。ボランティアで火縄銃用の火縄も作る。
※ 所属や肩書は取材当時のものです。

金箭は全鋼製で先端のみ焼きが入っている。頭部まで硬くすると手に響いて疲れやすくなる。潰れていくことで衝撃を吸収する。胴に刻まれた線はスリップ止めで、抜けにくくする。

全体はきわめて鈍角で、先端は鋭利。この形状を生かし、打ち込んだ対象物を力強く分割する刃物が楔だ。小さくて携帯にも便利。鉄製の楔は金箭とも呼ばれ、少し前までの炭焼き仕事では欠かせない道具のひとつだった。

「木元竹末」という言葉もあるように、木は根側から金箭を入れたほうがきれいに割れるそうだ。亀裂を追いながら順番に金箭を打ち込んでいくと、小気味よい音がしてふたつに割れる。これをさらに等分していく。

切り倒した木を柱や板に切り分ける縦挽鋸が普及したのは、室町時代以降のことだそうだ。それ以前の建築用材は、生木に楔を打ち込んで亀裂を広げ、任意の形に割っていく「割り木工」という技法で作られていた。

楔は二等辺三角形のような作業道具である。底辺側から打撃を加えて打ち込むと、侵入の深さが増すにつれ左右に押し広げる力が高まり、最後はどんな大きな丸木でも割ってしまう。

この原理を最近まで利用していた仕事が炭焼きだ。油圧式薪割機のような便利な道具がなかった時代、太い炭材は金箭という鉄製の楔で割っていた。「大きさは大中小の3種類ぐらい。最大でも手のひらに収まります。これとハンマーさえあれば、直径1尺くらいの木も簡単に割れる。どれだけ長い木でも金箭があれば割れますよ。考えようによっては機械よりはるかに合理的な道具です」

こう語るのは、愛知県豊田市にある『三州足助屋敷』の近藤三郎さん。足助屋敷は昔の生活技術がライブで見られる民俗展示館で、近藤さんは炭焼きを担当する職人である。

百聞は一見にしかず。近藤さんはさっそく長さ1mほどのアベマキを割ってみせてくれた。

最初に使うのは、長さ13㎝ほどの薄身の金箭だ。木口の外寄りから中心奥へ向かって斜めに打ち込むと、ピシッと音がして1本の亀裂が入る。

この割れ目に、ひと回り大きな金箭を外側から打ち込むと、今度はメリッと重い音が響き、ひびが縦に伸びた。近藤さんに促され割らせてもらった。不思議なことに、ある程度は順調に食い込んでいくのだが、途中から押し返すような衝撃があり、金箭が飛び出してしまう。

「弾かれんように、やさしくゆっくり打ち込んでいくのが基本。手に伝わる響きや音の違いから木の中の状態を感じとる。力まかせは疲れるだけです」

東日本大震災以降、原発や化石燃料の本質的不安に気づいた人が増えたせいか、木炭への関心は以前より高まっているそうだ。近藤さんの元へも、時おり炭焼き志望の若者が訪ねてくる。

「最近の子はまじめで一生懸命。でも、答えを早く得たがる感じがしますな。炭焼きの先生はあくまで自然。伐採も木割りも、そして窯焚きも、自分の感覚でつかんでいくしかないんやけどね。いちばん大事なのは、仕事を楽しむという姿勢です」
自然を楽しめる者だけが炭焼きになれる。深い言葉である。

三州足助屋敷
http://asukeyashiki.jp/

文/かくまつとむ 写真/大槗 弘

※ BE-PAL 2016年5月号 掲載『フィールドナイフ列伝 22 炭焼き職人の金箭』より。

現在、BE-PAL本誌では新企画『 にっぽん刃物語 』が連載中です!フィールドナイフ列伝でお馴染みの『 かくまつとむ&大槗弘 』のタッグでお届けしております!

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