2017.11.15

【クック諸島滞在記】第2回 島の一部になる

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島を知るためには、まずは島を一周するのが一番である。地図を見るとラロトンガ島は一周32kmとある。車だと40分。自転車だと2時間。歩いても6時間。島の真ん中にある山を越えてジャングルを歩いて縦断しても3時間。道路は島の外周をぐるりと廻るメインロードと、その内側に断続的に走るバックロードがある。メインロードは海の道。バックロードは森の道である。

この島唯一の街、アバルアから出発。自転車で反時計回り廻ることにした。

アバルアは街と言っても、それほど規模は大きくない。クック諸島ではヤシの木より高い建物を建てることが禁止されているため、大半の建物が1階建てになっており、街という印象はあまり受けない。自転車で5分も走ると、街の外に出てしまう。

街を出てメインロードを進むと、すぐに空港がある。滑走路が北側へ海に向かって伸びている。ラロトンガでは基本的に風は南東から吹くことが多く、到着便は風に向かって北側から入ってくることが多い。その場合、メインロード沿いにある滑走路の北端のフェンス越しに立っていると、すぐ頭上を巨大な飛行機が飛び降りてくる。また出発便のときは、出発時の機体から発せられる噴射の気流が感じることができる。しかしフェンスに「ジェット噴射に注意」と書かれている通り、時に猛烈な勢いになり、時折観光客が吹き飛ばされて怪我をしているという。

空港と滑走路を越してしばらく進むと、島の北端、ブラックロックが見えてくる。その名の通り、黒い岩が海に突き出すように重なり合っている。そこからは海を展望することができ、リーフから外洋、水平線に至る青のグラデーションが眼前に広がる。冬の時期は南氷洋からクック諸島にザトウクジラが子育てのためにやってくる。このブラックロックはクジラウォッチングのためには最適な場所なのである。

またこの場所には昔から言い伝えがある。この島に住む人々は、亡くなると魂の存在となり、このブラックロックから海に向こうへと旅立つとされている。水平線の向こう側にある安寧の地へと至る神聖な場所なのだ。

ブラックロックを越すと、風が島で遮られ波は穏やかになる。そのためラグーンは広く、トルコ石を透明にしたような不思議な青に輝いている。自転車を漕いでいるとヤシの葉越しにきらきらと海が輝く。平日の昼間だというのに、海で泳ぎ、ピクニックしている人たちも多く見かける。

途中、ピックアップトラックの荷台に果物を乗せて露天販売をしているところがあり、疲れてくるとそこで停まった。スイカ、マンゴー、パパイヤ、パッションフルーツ。どれも島で獲れたものばかりで、おいしそうである。溢れんばかりの陽光と一度降り出すととめどなく猛烈に降る雨が育てる島のフルーツ。その丸々と育った姿形はクック諸島人のようにふくよかである。

島の南端あたりに近づくと、左手に尖った岩山が見える。ニードルロックと呼ばれる場所で、標高413m。男性のシンボルとして、崇められている。島を歩いて縦断するとき、ニードルロックを越えることになる。

ここから先はビーチが点在し、それほど見所があるわけではない。というよりか、この島自体、それほど多くの見所があるわけではない。しかし、それは魅力がないということではない。観光的な派手な要素が少ないだけで、人々の伝統と文化に根ざした生活はより身近に感じられる。女性が頭につける飾りを作るためにティアレやハイビスカスなどの花を集め、子豚が道路を横切り、子どもたちが桟橋から海に飛び込む。彼らは私のような外から来た人間であってもすれ違ったら必ずKia Orana(こんにちは)と一声かけてくれた。

島を一周して、2時間半後にアバルアの街に辿り着いた。すると風景が出発前より身近に感じられるようになった。島をぐるっと回るあいだに、島の空気を吸い、島の果物を食べ、島の人と会話を交わす。そうすることによって、少しずつ体内にラロトンガ島の要素を取り入れ、島に受け入れられていく。

この島は訪れるものを迎え入れてくれる大きな包容力がある。そこに身を置くと、不思議な安心感があり、自分が自分でいられるような気がしてくるのだった。

次回に続く

写真・文 竹沢うるま

(プロフィール)1977年生まれ。写真家。
ダイビング雑誌のスタッフフォトグラファーとして水中撮影を専門とし、2004年よりフリーランスとなり写真家としての活動を本格的に開始。2010年〜2012年にかけて、1021日103カ国を巡る旅を敢行。写真集「Walkabout」(小学館)と対になる旅行記「The Songlines」(小学館)を発表。2014年第三回日経ナショナルジオグラフィック写真賞受賞し、2015年に開催されたニューヨークでの個展は多くのメディアに取り上げられ現地で評価されるなど国内外で写真集や写真展を通じて作品発表。世界各地を旅しながら撮影をし、訪れた国と地域は145を越す。近著にチベット文化圏をテーマとした写真集「Kor La」(小学館)や「旅情熱帯夜」(実業之日本社)がある。

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