紫金山・アトラス彗星の到来で湧いた秋。その興奮冷めやらぬなか、なんと新彗星が発見されました。さまざまな条件付きではありますが、ひょっとすると肉眼で見える可能性がなきにしもあらず。それにしても、なぜこんなに急に発見されたのでしょうか?
紫金山・アトラス彗星よりはるかに太陽に近づく新彗星
9月に見つかったばかりの新彗星の名はアトラス彗星。正式名称は「C/2024 S1」。アトラスとは小惑星地球衝突最終警報システムATLASのこと。地球に衝突するかもしれない小惑星をサーチするなかで、地球に接近中の彗星を発見することがあるのです。
彗星には発見した人や組織・団体の名前が冠されるため、アトラスの名のついた彗星はたくさんあります。この10月に話題になった紫金山・アトラス彗星も同じシステムで発見されています。ちなみにこちらは2023年1月から2月にかけて発見されました。
彗星というと、76年ごとに戻ってくるハレー彗星や、1997年に肉眼で観察できたヘール・ボップ彗星のような有名なものが思い浮かぶと思います。こうした有名な彗星は、ほとんどの場合いつ頃現われるという予想が何ヶ月も前にわかっているのですが、今回のアトラス彗星は発見から一番明るくなると予測される時期まで1ヶ月ほどしかありませんでした。
なぜこんなに最近まで発見されなかったのか。理由はひとえに、とても小さい天体だからです。ではなぜそんな小さな天体が、ひょっとしたら肉眼で見えるかもしれないほど明るくなる可能性があるのか? というと、ものすごく太陽に近づくからです。
どれほど近づくのか?
近日点(軌道上で太陽に一番近い点)は太陽から約0.008天文単位です。1天文単位とは太陽と地球の間の距離のことで、約1億5000万キロですから、約120万キロまで近づくことになります。太陽の直径が約140万キロですから、直径より小さい距離まで近づくのです。ちなみに紫金山・アトラス彗星でも0.4天文単位=約6000万キロですから、まさにケタ違いの近さなのです。
この近さゆえに、ごく近くなるまで発見されないほど小さいながらも、明るくなるかもしれない可能性を宿しているのです。10月8日の時点で、「核が崩壊した可能性がある」という指摘もでています。ただ、その後の経過を見る限りでは崩壊したと言い切れないようで、アトラス彗星は不確定要素だらけです。
アトラス彗星がもっとも太陽に近づくのは10月28日。小さな天体ですから、もし明るくなった場合、急激に明るくなり、急激に暗くなります。見えるとしたら10月28日から11月上旬の夜明け前の東の空です。
太陽をかすめるように近づく「クロイツ群」彗星とは
アトラス彗星のように太陽に超接近する彗星は、実はそれほど珍しい天体ではありません。彗星は軌道によってグループ分けされていて、アトラス彗星は「クロイツ群」の彗星だと考えられています。
元々の彗星が何かの理由で崩壊し、何百何千のバラバラの破片になって太陽系を回っていると考えられます。このクロイツ群に属する彗星は、Sun Grazer(サン・グレイザー/太陽をかすめるもの)とも呼ばれます。太陽をかすめるような軌道なのです。あまりに太陽に近づくため、その多くは蒸発してしまうと考えられます。
クロイツ群の彗星は、すでに数千個発見されており、珍しくはありません。しかし、その数多ある中で、太陽に大きく近づく前に発見されたケースは決して多くありません。
クロイツ群グループでもっとも有名な彗星は、日本のふたりのアマチュア天体観測者によって発見された池谷・関彗星です。1965年のことでした。明るさには諸説ありますが、マイナス17等級、満月ほどの明るさになったという記録もあります。
彗星は明るさの予測が難しい天体ですが、その中でもクロイツ群は予測できない天体です。太陽に近づいたときに、ちょうどいい感じにチリを放出しつつ核が破壊しなければ、見える可能性があります。
10月28日以降に「アトラス彗星が明るくなりました」というニュースが入ったら、翌朝、東の空を注目してみるといいでしょう。
現在、小惑星地球衝突最終警報システムATLASのような観測システムの発達に伴い、小さな彗星も発見されるようになりました。しかし、それでも今回のようにニュースになる小惑星はほんの一部です。太陽系には太陽にそれほど接近することなく、ゆえに発見されない天体も無数に存在しています。広い太陽系のどこかからやってきたアトラス彗星、今後のニュースを楽しみに待ちましょう。
構成/佐藤恵菜