さて。この日、僕はつがおかさん(左)の愛車で海沿いの国道を流しに行った。’84年式のシボレー/S10ブレイザー。若いころ、麻布の街角で見かけて一目惚れし、25年前に偶然同じ色の中古車を見つけて手に入れた。以来、キャンプに、家族旅行にいつも一緒だ。
「ところが一昨年、エンジンが焼き付くという大トラブルに見舞われたんです。なにしろ古いクルマなので、このときも廃車を薦められたのですが、どうしてもコイツへの想いが断ち切れなくて……」
つがおか家ではクルマも家族だ。愛犬と同じように、生き物として接してきた。
その胸の内を手紙にしたため修理工場に送ったところ、心意気に動かされたスタッフが、2か月もかけコツコツと修理してくれた。いま、つがおかさんは愛しいシェビーのステアリングを再び握れるシアワセを噛みしめている。
インディアンサマーの午後。葉山から長者ヶ崎へと続く坂道を嬉しそうに駆け上がる姿に、人と道具の至福の関係を見た気がした。
文=ホーボージュン
大海原から6000m峰まで世界中の自然を旅する全天候型アウトドアライター。Twitterアカウントは「@hobojun」
◎撮影/中村文隆