26年前から麦芽カスは堆肥に。地ビール時代から変わらない飛騨高山麦酒 | ナチュラルライフ 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2022.10.03

    26年前から麦芽カスは堆肥に。地ビール時代から変わらない飛騨高山麦酒

    その土地だからできるビールがある。飲めるビールがある。ローカルを大事にするブルワリーのビールを飲みたい。第37回は、岐阜県高山市で1996年からビールを造る飛騨高山麦酒。醸造長の髙橋有人さんにインタビューした。

    左から飛騨高山麦酒の「ヴァイツェン」「ダークエール」「ペールエール」。缶製品もあり。

    飛騨牛の農場の隣に生まれたブルワリー

    北アルプスの山々に囲まれた飛騨高山に、1996年に創業した飛騨高山麦酒(びーる)がある。1996年というと、酒税法が改正され「地ビール解禁」になって間もない。しかしそれほどの長い実績がありながら、東京はじめ首都圏ではあまり知られていないブルワリーだ。ほとんどが地元周辺で消費されてしまうらしい。

    創業者は、飛騨高山の名産、飛騨牛の農場経営者、安土則久さん。大の酒好き。かねてより自分も酒を造りたいと思っていたところ、90年代になって地ビールが解禁された。安土さんは「ビールの麦芽カスは牛の飼料になるし、牛のフンと混ぜればいい堆肥になる」と考えてビールづくりに着手した。

    麦芽カスの飼料や堆肥への活用は、現在はあちこちのクラフトブルワリーが取り入れている資源循環の発想。飛騨高山麦酒は26年前、まさに循環型農業になることを理由にビール造りを始めた。麦芽カスも牛のフンもゴミにしない。

    社長の安土則久さん(左)と、醸造長の髙橋有人(ありひと)さん。髙橋さんは2001年から飛騨高山麦酒でビールを造っている。

    安土社長が育てている飛騨牛。農場はブルワリーのすぐ近くにある。

    当初から麦芽カスは主に堆肥として活用されていた。「牛のフンと混ぜると、微生物が増殖していい堆肥になるのです。使用後のビール酵母も混ぜ込みます。さらにいい堆肥になります」

    一度の仕込みで1500〜1600リットルのビールを造る。そこから出る麦芽カスは約500キロ。ビール酵母も数十キロ。水分を含んでずっしり重い。廃棄するなら、ただの生ごみである。500〜600キロもあるものを処理するのは、それはそれでかなりの労働を要する。堆肥にすれば、「(麦芽カスを)フォークリフトに積んでガーッと牛舎まで運ぶだけなので」と髙橋さん。堆肥にする方がむしろ手間がかからないようだ。

    使用後の麦芽カスをかき出す髙橋さん。

    こうしてできた堆肥は、近隣の農家にあげる。無料で。麦芽カス入り堆肥は、各農家でさらに鶏糞やカキ殻などを混ぜ混んで使われることもある。お返しは、収穫したての農産物。高山はトマトの名産地であり、ブルワリーの近隣にもトマト畑が広がっている。「それはもう、よそのトマトが食べられなくなるくらい」(髙橋さん)おいしいのだそうだ。

    変わらないこと、変えないこと

    飛騨高山麦酒の瓶ビールは500ml入り、見た目もどっしりしているし、手に持てば重さを感じる。容器の軽量化が進む現在、この形のボトルはなかなかお目にかからない。創業当時からずっとこのボトルを使っている。

    「社長が直感で選んだそうですよ。見るからにどっしりして飲み応えがありそうだと(笑) これならグラス1杯注いでまだ飲めるし、と」

    いかにも酒飲みらしい。ビール好きなら納得しかない理由である。 

    一方で、缶製品も1998年から製造している。この頃、缶ビールを製造していたクラフトブルワリーといえばエチゴビールやヤッホーブルーイングといったところ。循環型農業の発想といい、缶製品といい、とても先進的なブルワリーだ。

    ラインナップはペールエール、ピルセナー(ピルスナー)、ダークエール、スタウト、ヴァイツェン。瓶内熟成させたカルミナ。これら定番に季節限定が3種類。IPAもヘイジーIPAもない。このラインナップも創業当時からほとんど変わっていないそうだ。近年のクラフトビール人気の影響はあまりないような印象を受ける。

    「工場は道路整備のために昨年、近くに移転しましたが、規模もほとんど変わりませんし、お客様から『ラインアップ変わらないの?』と、よく聞かれます(笑) でも、常に個々のビールの品質アップに努めています」

    レシピは同じでも中身は少しずつ改良されていく。そのわずかな変化は、一般の人にはわからないだろう。たとえ、“おいしく”なっていても、その変化が急激だとお客さんはついてこない。「飛騨高山麦酒さんの、いつものビール」であることが大事。その安定感から来る安心感は、26年という時間が醸成したものだろう。

    2018年にはJR高山駅の近くに、飛騨高山麦酒のビール全種類をタップで提供するビアバーが誕生した。地元の人や観光客はじめ、行き帰りに立ち寄るキャンパーもいるという。 

    それにしても、変わることも大変だろうが、変わらないことはもっと難しいのではないだろうか。そもそもビールの原材料は農産物だから、いつも同じというわけにもいかない。近年は猛暑やら大雨やら、気候の変化が激しくて対応に苦慮していると髙橋さんは話す。

    「今年もけっこう暑かったので、外気温の変化には気を遣いますね。ちょっと高くなるとビールの温度も高くなってしまうので。風通しをよくしたり」。冬になれば豪雪地帯だ。「冷えすぎると発酵が進まないので温度を若干高めにしたり。この規模なので、ぜんぶ私が手作業で。はい、アナログです」と言う。1日の中でも気温が思わぬ変化をすれば、髙橋さんはブルワリーに駆けつける。なんでもブルワリーのすぐ近くに住んでいるそうだ。こうしておいしいビールが造られている。

    ビール愛にあふれている髙橋さんだが、なんと「一杯でベロベロになるタイプ」だそうで、好きなビールスタイルは「一口でも味わい深いスタウト」とのこと。

    飛騨牛と飛騨高山麦酒を合わせるならどのビール? とたずねると、「飛騨牛は、わりと味が濃いので、スタウト、カルミナ(瓶内熟成させたビール)が合うと思います。もちろんピルセナー、ヴァイツェンも合います」ということで、要は好きなビールといっしょに食べればおいしい! ということ。シンプルだ。サステナブルなビールづくりには、このシンプルさも必要なのかもしれないと思った。

    ロゴマークの高山祭りの獅子が迎える飛騨高山麦酒のブルワリー。

    飛騨高山麦酒 
    所在地:岐阜県高山市松本町999
    https://www.hidatakayamabeer.co.jp

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜
    ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@ダイムやSuits womanでも仕事中。

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