本誌はみ出し情報

特別企画 峻厳な自然が育んだ、あったか「アイリッシュ・ハート」はみ出し情報 独占インタビュー マット・モロイ

自分のパブでインタビューを楽しむ マット・モロイ(右)と、通訳のデック(左) マット・モロイ(右)とデック(左)

ビーパル本誌2007年6月号でも紹介しましたが、4月に訪れたアイルランドで、アイリッシュトラッドミュージックの国宝級バンドとされる、チーフタンズのフルート奏者、マット・モロイ(ザ・チーフタンズ)へのインタビューに成功しました。といっても彼のパブへ行ったら偶然彼がいて、話が聞けてしまったということで、むこうは「日本人とおしゃべりを楽しんだ」くらいに思っていたかもしれません。通訳のデックが、割り込むのに苦労するほど、音楽の話を夢中でしてくれました。デック曰く「マットさんは妖精のような顔をしています。妖精に一生懸命話しかけようとしているハチさんを見ていたら、なんだか笑いがこみあげそうになって、通訳するのに苦労しました。」ということで、以下が来日直前、チーフタンズメンバーをとらえた、独占単独インタビューです。
H:蜂須賀、M:はマット・モロイ(ザ・チーフタンズ))


H:日本ではどんな演奏になりそうですか?

M:1〜3月までアメリカ公園をやり、南アイルランドのネンムリック大の音楽部を卒業したリヨドンという6人組の女性バンドが歌を歌えるし、楽器もいろいろできるから、彼女たちの紹介もできると思う。でもアメリカから帰ったばかりだから、まだ細かいことは決まっていない。日本のシンガーともやる予定だよ。

H:日本に何回か来ていますが、日本の印象は?

M:うちのバンドリーダーのパディーも寿司の大ファンだよ。日本食はいいね。音楽に対しても興味を持ってくれる国民だよ。

H:寿司を食べるときもビールをいっぱい飲むの?

M:いやいやいや酒だよ。熱燗だ。それより何か飲むか? (僕はギネスをリクエストし、マットは自分でカウンターへ入りギネスを持ってきた)
どうだい奥へ行くか? (パブには奥の奥まで部屋があり、天井が抜けた煙草部屋もある)

H:ここでいいですよ。(奥へ行ってみたいが、やたら盛り上がっている声が聞こえてくるし、そんなところへ連れ込まれてはインタビューにならんだろう!)

  マットのパブ マットのパフ その名も「マット・モロイズ」の外観

パブでの演奏風景 パブでの演奏風景 この日はフランスから来たバンドが演っていた

M:次の仕事が5月で、ロンドンで映画音楽をやるんだ。ネッシーの映画のBGMをチーフタンズがやる。

H:ネッシーのために新しい曲を作る?

M:いやオーケストラのための曲を伝統的な楽器でチーフタンズもやるんだ。オーケストラもやるし、伝統的な楽器でチーフタンズもやる。まだはっきり分からないけどね。アザラシの伝説からも曲を作ったよ。日本にもアザラシの伝説(人魚伝説)はあるんだろ? アイルランドにもそういうのは多いんだ。

H:妖精のスピリチュアルなものを感じて、それがあなたの音楽に影響を与えたりしますか? 現在のアイルランドの自然からもそういうことを感じる?

M:僕は60歳になったけど、若いころからずっと年寄りの演奏しているところへテープレコーダーを持って行って録音してきた。僕が最初に発見して世の中に伝えた曲もある。新しい曲を作る必要は一切ないんだ。過去に戻っていっぱい引っ張ってくればいいという人間なんだよ。ものすごくたくさんの古い曲がこの国にはあるんだ。新しい人たちは周りに影響されて、流行の曲に伝統の楽器を使ったりする。でも僕が一番好きなのは、アイルランドの音楽がもともと持っているものの範疇の中で仕事をすることだし、そういう仕事を尊敬する。ただチーフタンズもいろいろな文化の中の音楽のパーツを引っ張って来てやることはある。(ここで通訳のデックは自然のことに答えていないマットにもう一度質問を繰り返す。)

M:ハッハハハ、もちろんだ。自然の中からインスピレーションを受けるさ。アイルランドの音楽は、コア部分で、音楽の家元がこれからも守っていくだろう。昔に比べてアイルランド音楽をやる若い人は多い。でも大勢がやっているからマンネリにもなっている。バラはヒース(ガーデニングのグランドカバーなどに使われる小さな花)の中にぽつんと頭を出す。今の音楽家の中にも頭を出してくるやつもいる。でもヒースもいい、バラも素晴らしい。(アマチュアもプロもいいという意味か)
今の若い人たちの間ではテクニックは素晴らしいものがある。学校でも習えるし。でもハートがないのか、ルーツがないのか、何か物足りない。僕らは古い人から、彼らの言い分も聞いたんだ。その長い人生の中には必ず訴えるものがあった。年よりからは、どんな下手でも訴えるものはあった。若い人はチーフタンズを見て、俺たちにもできると思ってしまう。ヒットを一発出して終わってしまうことも多いんだ。


西アイルランドの羊飼いの家 どこにでもある風景です 西アイルランドの羊飼いの家

H:どうしても音楽の話になるけど、アウトドアマガジンだから聞きます。あなたは世界中回っていますが、アイルランドの自然の一番素晴らしいところ、スピリチュアルなイメージを受けるところはどこですか?

M:バルドリンという田舎町の生まれで、都会のウェストポートに引っ越してきたから、ここは大好きだ。何回もアイルランドを一周した。今年は天候が悪かったけど、西アイルランドのボッフィン島が好きだよ。ボートも持っているんだ。ボッフィンは音楽家がいっぱい来るところだ。スキューバ、セーリングも好きだ。

H:自然から受けるものを形にしたいと思うこともある? 伝統的な音楽から受けるものが大きい?

M:当然ながら自然のものから影響は受けている。そういう環境に育ったからね。音楽もずっと回りにあった。でも僕の兄弟がみんなこうなったわけではない。ある人にとってはアイルランド語そのものが、この国の古い遺産なのかもしれないが、僕にはそうではなかった。アイルランド語も音楽も、僕にはすごく生きたものだったんだ。ソロアルバムを出したばかりだけど、自然に直接影響を受けた曲もあるよ。「バブリンブルック」という曲は、小川が流れてぺちゃくちゃしゃべるようだということ。「ウインドインウッズ」は森の中のささやきだ。新しいアルバムに入っているから君にあげるよ。

H:うわぁ、ありがとうございます。


「妖精の砦」と呼ばれる古代の住居跡 「必ずサンザシの木が植えられている。アイルランド人はこの砦を壊したり、汚すことは決してしないという。あるおばさんの話「妖精だって? 信じないわよ。でもいるわね。」

M:あとこれは10年前のこのパブでのセッションを収めたCDだ。たまたま名人がいっぱい来た日だった。何人かは君も知っているかもしれない。若いころから好きだったものや、今まで録音されていないものも入っている。これが作られなかったら失われていたかもしれない曲も入っている。最初マイクをパブの机の上に立てたらみんな緊張しちゃった。ちょっと外に出てワイン開けて帰ってきたら、すごく盛り上がっていたんだ。マイクが片づけられたて、天井から吊るしてあったのさ。すごくいい演奏だったよ。このパブの奥の部屋で録ったんだ。どうぞ奥の部屋を見せてあげるよ。音楽も始まる時間だ。


【インタビューを終えて】

結局マットはここで僕らを一つ奥の、畳20畳ほど部屋へ案内した。その奥にさらに大きな部屋があり、今日のライブはそこで行われる。すでにミュージシャンが準備していた。
マットはファンに囲まれたりして、だんだんインタビューどころではなくなってくる。インタビューというより、楽しいおしゃべりというかんじだったのだろうか。そうこうしているうちに音楽が始まる。マットは名刺に電話番号とサインを書いて僕にくれた。あとはもうアイルランドのいつもの夜だ。ギネスが回り、音楽に酔う。この後、外に出ると後ろからクラクションが鳴った。振り向くとそれはパトカーで、警官が路上の友人に何か大きな声で話しかけた。「後でパブで会おうな!」とでもいってるんですよ。通訳のデックが笑う。なんて国なんだアイルランド!

翌日から僕らはマットにもらったCDを聞きながら旅を続けた。彼が自然を直接の題材にしているといった曲を聞きいわゆるNHKの自然番組で流れるような自然の表情をなぞるようなものではなくむしろそのイメージから飛び出してゆくようなポジティブでダイナミックな解釈に驚く。あるいは完全に自然を突き抜けて未来の彼方まで行ってしまうような抑えきれない疾走感メロディーの飛躍もある。それがあるからマットは自然の話をあまりしたがらなかったのかもしれない。

しかしマットの早弾きは本当に凄い。吹きすさぶアイルランドの風の中でちぎれてしまうギリギリを楽しむ木の葉のようだ。全盛期のピートタウンゼントやジョーストラマーをも彷彿とさせる狂気ギリギリの疾走感を60歳のオヤジが走りぬけていくのだ! この音楽は単なる自然の描写ではないのだ。そして単に心象風景でもない。もしかしたらそこには、抑圧されてきた民族の、強い未来への意志があるのかもしれない。「悲しみも喜びも一つなのだ。生きるということはもっと強い。明るい。」そんなことを悟っているようにも感じられる。「音楽のダイナミズムはテクニックだけで出せるものではない。シンプルな音楽的アイディアが、縦に積み重なった、風景と人間の織り成す物語とシンクロすることだ。表情は大切だが、わびさびに落ちすぎてもいけない。」彼の出す音の一つ一つが、そんなあたりまえのこと、そしてとても難しいことをやりぬいている。すごい音楽だ。奇跡のような音楽だ。日本公演は絶対に見逃せないものになるだろう。どんな世代の、どんな嗜好の人にも聞いてもらいたい音楽、それがチーフタンズだ。


【おまけ情報】

*今回の旅で通訳をしてくれたのは、長く日本に住み、日韓ワールドカップでは、アイルランド代表チームの日本語通訳も務めたデック・サマーズ。彼は今母国アイルランドでツアー会社をやっている。帽子を貸してあげたら「う〜ん、僕がかぶると巣鴨のおばちゃんみたいです。」などという冗談が出る日本通。もしあなたがアイルランドへ行ってみたいと思ったなら、とにかく日本とアイルランドに大きな愛情と、深い知識を持つデックに相談してみたら。
http://www.ewe.ie

*マット・モロイ(ザ・チーフタンズ)のソロアルバム「シャドウ オン ストーン」はマジいいです。チーフタンズのアンサンブルでは聞けない、マットの木管フルートの、尺八のようなかすれ音、息継ぎの迫力が存分に楽しめます。

*日本・アイルランド国交樹立50周年記念コンサート
ザ・チーフタンズ 来日公演日程
6/1(金)Bunkamura オーチャードホール(プランクトン 03-3498-2881)
6/2(土)大阪 ザ・シンフォニーホール(ABCチケットセンター 06-6453-6000)
6/3(日)福岡 シンフォニーホール(ピクニック 092-715-0374)
6/5(火)広島 国際会議場フェニックスホール(夢番地 082-249-3571)
6/7(木)愛知 長久手町文化の家(0561-61-3411)
6/8(金)岐阜 可児市文化創造センター(0574-60-3311)
6/9(土)長野 まつもと市民芸術館(0263-33-3800)
6/10(日)すみだトリフォニーホール(プランクトン 03-3498-2881)
6/12(火)茨城 つくばノバホール(つくば都市振興財団 029-856-7007)

ゲスト
●元ちとせ:ヴォーカル(6/7長久手を除く全8公演に出演)
●林英哲:和太鼓(6/1渋谷・6/7長久手・6/9長野に出演)

総合info:プランクトン03-3498-2881 http://plankton.co.jp/

 


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