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ここは北海道、礼文島。日本で最北の有人島だ。アイヌ語で「沖の島」を意味する。
僕は島を縦断する「愛とロマンの8時間コース」という約30kmのトレッキングコースを歩く。
コース名の由来は、苦労を共にすることで男女の間に「愛」が芽生えたり、北の荒々しくもやさしい壮大な自然から「ロマン」を感じ取れるというところからきている。今回は桃岩壮というユースホステルに宿泊中の18人と共に歩かせてさせてもらった。
メンバーは、ひとり旅の男子高校生、女子大生、家事見習い、13歳と15歳のこども連れのご家族、50代のご夫婦、フランス人、アルジェリア人などさまざま。
ユースの宿泊者だからってこともあるがこのコースを歩く旅行者は若者が多い。
しかも、女の子が多い。うれしい。
だけど、なぜなんだ?
スタート地点のスコトン岬。沖に見えるのが無人島のトド島。そのすぐ向こうはロシアとの国境。写真では確認できないがうっすらとサハリンの島影がみえた。
スタート地点である島の最北端スコトン岬に到着。
絵に書いたようなスコンッと抜けたような空が広がる。まさに快晴。
北の水平線に目を凝らすとサハリンの島影がうっすらと見えた。
AM7:00.さてスタートだ。
コースは島の西海岸沿いを南下する。
日差しは強いが、オホーツク海からの涼しい潮風が体をなでて心地いい。
クマザサが見渡す限りの地面を覆い、緑の絨毯が島中に敷き詰められているようだ。
海の青と山の緑のコントラストが目にまぶしい。
ところどころに立つ樹木がすべて海とは逆方面の内陸のほうに向かって成長している。一年を通して、海から強い風が吹いていることを物語っている。
「おにいさん、水を分けてもらえませんか?」
栃木からバイクでひとり旅をしている男子高校生に水をせがまれる。
僕だって次の給水所までの自分の水しか持っていないのに・・・。
一緒に歩いている仲間だし、未熟な高校生ときたらあげざるをえない。
さっきまでこいつはコース上にある海岸で漁師さんからもらった塩辛い干した昆布をこれでもかといわんばかり齧っていたのだ。
だから言っただろうにやめろと。
しかも、こいつときたらゴツゴツして重そうなバイクシューズを履いているのだ。
自然の中を30kmも歩こうという心構えは決して持ち合わせていない。
ちらっと近くのコンビニでも行ってきますくらいのノリだ。
この高校生だけじゃない。ほかを見渡しても「これから渋谷」と言い出しそうな肩を露出したキャミソール姿の女子大生、ソールが非常に薄い\2000のコンバース・オールスターを履いた少女、ジーンズ&革靴のサラリーマン、荷物は右手に持った500mlペットボトルだけのアルジェリア人などなど。
コースの下調べをして、宿を出る前に軽くストレッチをして、トレッキングシューズを履いて、気合いをいれてきた自分があほらしく思えてきた。
そもそもなんでみんな30キロも歩こうと思ったのかそれぞれに歩きながら聞いた。
「去年歩いてみて、また歩きたくなったから」(家族)
「自然の中で歩いていると気持ちいい」(フランス人・32歳・男性)
「旅の思い出に」(サラリーマン・25歳・男性)
「達成感や感動を味わいたい。みんなとそれを共有したい」(女子大生)
若い人は特に、このコースをみんなで盛り上がれる一種のイベントのようなものとしてとらえているようだった。
果たしてそんな軽いノリで30kmも歩けるのか?
港町、西上泊を見下ろす。先に見える岬が澄海岬だ。島を覆うクマザサが緑のジュウタンのようだ。潮風が心地いい。朝が早かったので昼寝をしたくなる。
歩いて3時間、西上泊という小さな港町に到着。
休憩時間となるとところ構わず地べたに腰をおろす若いメンバー。
まだ歩きはじめだというのにみんなキツそうだ。
ここからはほんの小さな港町があるだけでずっとエスケープできるルートがない。
つまりここから歩き続けるということは完歩しか残された道はないのだ。
まだ全行程の3分の1もきていないのに。
歩いている様子をみて、ここから引き返したほうがよさそうなひとが何人かいた。
でも、誰もリタイヤすることなく歩き始める。
互いに励ましあう言葉が風に乗って流れてくる。
笹泊付近の断崖絶壁を下りる。このコースで最も危険な場所。こちらの恐怖などお構いなしに高山植物がいたるところに優雅に咲き乱れている。
写真の右側が海で、左側が陸。海からの風の影響で左に成長している樹木。自然の厳しさが木を通してひしひしと伝わってくる。
島の中央付近。南にいくほど植生が変わり、樹木の背が高くなってくる。
礼文島の植生は北から南にいくほど、背の低いクマザサから背の高い針葉樹に変化していく。山の景色が歩くたびに変化して飽きない。
コースは時々、砂浜に下りたり、足場の悪い海沿いの岩場を歩かせたりしてトレッカーを退屈させない。とても優れたトレイルだと思った。
みんな「つらい。しんどい」といいながらも最終的にひとりの脱落者も出さずに僕らはゴールの桃岩荘まで11時間30分かけて歩ききった。
歩ききった後の率直な感想は「人間って結構歩けるものなんだな」ということだった。
どんなに乏しい装備でもからだひとつあれば30kmくらいは平気で歩けるんだなという発見だった。
歩くことをむずかしく考えすぎていた。
食べる、寝る、しゃべるなどと同じように人間が生きていくうえで必要な行動の一部に過ぎない。
今でこそ車や自転車で移動することができるが、それらがない時代は自分の足だけが移動の手段であった。
現代人は歩けないのではなくて、歩かないだけ。
歩くという偉大な力をみんな隠し持っているだけなのだ。
残念ながら(?)コース名の由来のように男女の愛は生まれなかったが、男子高校生がこんなことをつぶやいた。
「女には恋できなかったけど、おれ礼文島に恋しちゃいました!」
オレもだ青年!
足場の悪い海岸沿いの岩場を歩く。波の高い日は通行不可能になることも。作業する漁師さんの話を聞くのもたのしい。
ゴールまであと少し。夕日で赤く染まった利尻富士が出迎えてくれた。疲れを忘れる。
ゴール直前にそびえ立つ奇岩、桃岩。歩いてきてよかったなあと思える絶景がいたるところで僕らを迎えてくれる。
《筆者プロフィール》
森山伸也
新潟県三条市出身、27歳。
実家は稲作農家。
大学時代の卒論は「アイガモ農法」だった
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