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なんたって「ブカツ」である!

●なんたって「ブカツ」である!
 最近、私は「ブカツ」にあこがれている。ブカツ、すなわち部活動的なるもの。私の理解では、それは次のようなものたちである。
 朝練。試合に向けての入念な調整。筋トレ。ストレッチ。栄養のあるメシをもりもり食うこと。十分な睡眠。それから、これがいちばん重要なのだが、「女なんかには興味ないぜ」という態度!(というフリをしつつ、ホントはすごくモテたい)
 ところで、センチュリーライドは、レースではない。楽しみながらみんなで100マイルを走ろうよという、お祭り的イベントである。速く走ることが目的ではない。楽しめばいいのだ。そのように頭ではちゃんと理解できている。しかし、ハワイ行きが決まってからというもの、私の気分はだんだんと「ブカツモード」になりはじめていた。
 まず、出発1週間前あたりから、会社の仕事よりも自転車のことを考えてしまうようになった。勉強よりも練習優先。授業時間は睡眠時間でしかない。「ブカツ」とはそういうものである。
 以前、通勤で愛用しているロードバイクを撮影用に貸した際に「前輪のリムがゆがんでるよ」といわれたことがあった。そのことを自転車ライターの山本さんに相談してみると、「タイヤを空回りさせてみて、ブレーキにあたらない程度なら大丈夫だよ」と、教えてくれた。帰宅後に、さっそくチェックしてみる。前輪を持ち上げて手で回すと、ゆらゆらと不安定な軌道を描いた後、ブレーキのゴムにあたってピタリと止まった。やはりホイールがゆがんでいるらしい。
 ロードバイクのメインテナンスの本を調べてみると、ホイールのスポークを1本1本調整しながら締めていく「フレ取り」という作業があることがわかった。慣れれば自分でもこの作業はできるという。ただ、相当こまかな作業なので、最初はプロにたのんだほうがいいようである。でも、試合まであと4日、プロにたのむ時間はない。(センチュリーライドは「試合」ではないが、私のブカツ的思考回路の中では、ほぼ完全に「試合」だった)。
 結局、日本を出発する前日、新宿に打ち合わせに行くフリをして仕事をサボり、カンパニョーロの新しいホイールを買った。前後で4万円。ホイール交換用の工具、スピードメーター、ライトなども買った。なんたって、試合用だ。このくらいの出費、たいしたことはない。
 深夜に帰宅して、マンションの風呂場で、メインテナンス本片手に、油べとべとになりながらホイール交換作業をなしとげた。朝日が町を照らしはじめるころ、誰もいない川っぺりの道で、試運転。空を飛ぶカモメのようにすいすいと走った。昨日までと同じ自転車とは、まったく思えない。徹夜明けで疲れているはずなのに、口元にのぼってくる笑いをこらえられなかった。

●ステーキを食べた夜、事件はおこった!
 それは試合の前夜だった。夕方6時から350gのフィレミニオンステーキの夕食をとり、アラモアナのダイエー(ハワイにもある!)で購入した体重計で出走前の計量大会を催し、11時すぎにホテルの電灯を消して、ウトウトとまどろみの世界を泳ぎはじめたころだったと思う。闇の中でふと、誰かに呼ばれているような気がした。その音は、とぎれとぎれだが、少しずつ大きくなってくるような気もする。
 かち、かち、かち……
 これは夢なのか? それとも空調の音なのだろうか? いぶかしげに目を開けたその瞬間、耳をつんざく、するどい破裂音。全身の筋肉に、ぎゅうっと力がこもった。やがて自分がつばを飲み込む音が聞こえた。
 夢ではなかった。
 枕元をさぐってフロアランプをつけ、自転車を点検すると、後ろのタイヤがぐにゃりとしなびている。チューブが破裂していた。
 ロードバイクは、タイヤの空気圧を高圧にすればするほど、つるつると滑るような高速で走ることができる。日本から持ってきた圧力計付きの空気ポンプには、メーターの600〜1000kPaのところに「ロードレーサー」と表記がある。昨日と今日の朝練では800くらいの空気圧で走ったのだが、明日は本番だからとつい欲張って1000を示す線ギリギリまで空気を入れたのが破裂の原因だった。やはり私は速く走りたいのだろう。レースではないとわかってはいるのだが。
 そういえば、昨夜はライター大塚くんのタイヤに画鋲が刺さっていたらしい。そして今夜は私の自転車に。もしやこれは、何者かの陰謀なのか。それとも下駄の鼻緒が切れることのように、不吉な徴候なのか。いやいや、まさか。
 そして朝が来た。

●インタビュー取材で鼻の下をのばす(びろろーん!)
 スタートして約1時間。7時半すぎに、最初のチェックポイント、サンディービーチパーク(25マイル折り返し地点)に着いた。芝生の上には、バナナやクッキーをかじりながら、仲間たちと語りあっている参加者たちの笑顔、笑顔、笑顔。ここにたどり着く直前にけっこうな急坂があったのだが、そこをクリアしたというそれぞれの喜びが、この場の雰囲気をこんなにもピースフルなものにしているのだろう。
 今回、BE-PALチームの3人は、ちょっとした役割分担をした。ライターの山本さんと大塚くんは、100マイル完走を目標に走って、その体験記を書く。山本さんはBE-PAL創刊期から活躍している超ベテランの自転車ライター。大塚くんは、風呂なし6畳の文学的なアパートから神保町の事務所まで、毎日自転車で通勤をしている若手ライター。経験も趣味も年齢も違うふたりが、このイベントで何を感じるのか。それをBE-PALに書いてもらおうと思った。
 そして私は、センチュリーライドに参加している人に、簡単なインタビューをすることにした。若い女性を中心に、目標8人くらいの参加者に話を聞きたい。そしてインタビューを終えたら、私も残り140kmを完走したい。いや、仕事だからではない。インタビューが終われば、むしろ編集者の私は、カメラマンのKUMAさんと行動をともにすべきだったろう。しかし、これは私にとって「ブカツ」なのである。誰がなんといおうと、試合には出たい。ハワイで160kmを走りたいのだ。
 コース上に点在するチェックポイントには、タイムリミットがあった。いちばん先にある100マイル折り返し地点、スワンズィービーチパークのチェックポイント終了時刻は、12:15。ここから約60km。タイムリミットに間に合うためには、できればここを8:45くらいには出発したいと思っていた。
 しかしインタビューは、想像していた以上に楽しかった。太陽の下で汗粒を光らせた女性たちと話をするのは男子にとって何にもまさる幸せである。取材を終えてサンディービーチパークを出発したとき、手元の時計はすでに9:03を示していた。
 日は高く上り、だんだん暑くなってきた。休憩ポイントでも、水を補給するだけ。スピードメーターの速度が時速20kmを下回らないよう、機械のようにこぎ進んだ。前方に人影が現れると、抜き去ることだけを考えた。
 9:33、40マイル折り返し地点を通過。
 10:10、50マイル折り返し地点を通過。
 時は刻々とすぎていく。
 でも調子はとてもいいようだ。40マイルや50マイルなどの短めのコースに参加している女性ライダーたちを次々と抜き去っていくことができる。もしかして、おれは天才サイクリストなのではないか……? などと、バカなことを思ったりもする。
《路行く人を押しのけ、跳ね飛ばし、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駆け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでいく太陽の、十倍も早く走った。》(太宰治「走れメロス」)
 「メロス」の部分を自分の名前に置き換えて、映画「ロッキー」のテーマソングを鳴らしながら読んでもらえば、そのときの私の心境がわかってもらえるかもしれない。
 10:50、75マイルの折り返し地点を通過。
 最後の登り坂に挑みながら、ここまでくればもう大丈夫と思った、そのときのことだ。右のふくらはぎに、身に覚えのある脈動が走った。
 ぴくぴくぴく……ピ、ピキッ!
 足がつりかけているのだ。スピードを少しだけゆるめ、とりあえず右の靴をビンディングから外した。左足一本でペダルを回しながら、ブラブラさせたり、ストレッチしてみたり、あられもないポーズでこぎつづける私。海岸で釣りをしていた子供が「あの人は何をやっているんだ」という目で私を睨んでいる。あいつから見れば、おれは曲芸師か何かに見えるに違いない。でも、ここで止まりたくはなかったのだ。とにかく走り続けたかった。なぜなら、ついさきほどの上り坂で、女子3人組を颯爽と抜きさったところなのだ。抜き去る瞬間、ゼエゼエいってるのがわからないように、息までとめてカッコよくシャアアアっと追い抜いてしまったのだ。こんなところでストレッチしていたら、
 「あんなにスマートに追い抜いてくなんてカッコイイ人ねえと思っていたのに、なんてブザマなんでしょ。レースじゃないんだから、足がつるほど無理するなんてこの人バカなのかしら?」
 と思われてしまうではないか。この期に及んで、そんなことを気にする自分は、ほとほと大バカ者である。こういう自意識過剰を治す薬、どこかにないんだろうか。あほらしいねえ、まったく、と水をがぶ飲みしていたら、やがて痙攣は収まってきた。
 結局、タイムリミットには間に合った。11時36分に100マイル折り返し地点に到着。セブンイレブンでスパムおむすびとコーラを買って、ゆっくりランチを楽しみ、帰り道ではすばらしい景色を楽しむ余裕もあった。
 ゴール直前の登りでは、数十人を、ゴボウ抜き。最後の下りでは重いギアをぐいぐいこいで、最高時速61.5kmをサイクルコンピュータに記録した。
 センチュリーライドから1ヶ月半たった今、いったい何のために、それほどまでにがんばったのだろう、と不思議に思う。メロスには、彼を待っている人がいた。その人に「信じられているから」こそ、濁流にもまれたり、山賊に襲われたりしても、めげずに走りつづけた。しかし私は、何のために?
 オレこのまま変身しちゃうんじゃないか? と思ったほどの自分のがんばりには、我ながらびっくりさせられた。それが何のためなのか、全然わからない。ただ、あの体験はまさに「ブカツ」的なる何ものかであった。そして「ブカツ」こそが人生最高の楽しみではないかと、いまこの原稿を書きながら私は思うのだ。

●私の自転車デローザ号について。
 上野の老舗ショップ「横尾双輪館」で、昨年11月に組んでもらったロードバイクは、いつも片道9kmの通勤で使っているものだ。総額30万円。人生でいちばん高価な買い物である。重量は約10kg。フレームはデローザの1957年レプリカで、これだけで約15万円。細身でかっこいいけど、鉄製なので、ロードバイクとしては、やや重いかもしれない。
 ただし、素材がとてもよいので(コロンバス/SLX。メッセンジャーA君によると、クロモリフレームのロールスロイスなんだそうだ)、とくに登り坂でグイグイ進む。下りで抜かれても、登りではほとんど敵なし。私はどちらかというと足腰は強くないほうなので、これは絶対に自転車のおかげだと思う。
 パーツはイタリア・カンパニョーロ社のケンタウロ。ギアは前3枚、後10枚。上り坂で自転車を降りなくてもいいように軽いギアがほしかったので、前3枚を選んだ。ちなみにいちばん軽いギアだと、前のギア30歯、後ろのギア28歯。ほとんど1:1に近い。ひとこぎすれば、タイヤ1回転。昨年12月に九州の碓氷峠を荷物満載で挑んだときも(BE-PAL2004年3月号)、最後まで降りずに登りきることができた。
 出発前にホイールをカンパニョーロのものに交換。タイヤも新品に交換(パナソニック/ストラディウスエリート 700×23C)。サイクルコンピュータは大塚君と同じキャットアイのものを購入。ハワイの自転車屋さんで、BELLのいちばん安いヘルメット(3000円くらい)と、サドルのうしろにつけるボトルホルダーを購入した。
(編集・ブラジリアン住川)

編集ブラジリアン住川・31歳。長野県生まれ。水瓶座O型。100マイルの折り返し地点にはセブンイレブンがあり、スパムむすびでランチ。
輸送中にぶっこわれないよう、輪行バッグの中に段ボールをつめた。
輸送中に後ろの変速機の部分が傷つきやすい、との山本氏の助言にしたがい、変速機をはずしてタオルに包みフレームに固定(写真はその固定をほどいたところ)。変速機の取り外しは六角ネジ1本。簡単。
朝練の途中で立ち寄ったショッピングモールで、ハワイの警察官を目撃。お巡りさんはこんな自転車に乗っていた。

撮影/KUMA
私の取材場所、サンディービーチパークで出会ったローカルのお兄さんたち。

撮影/KUMA
誌面にも出てました。チョイさんご一家。エツコさんの娘さんは今、福岡に住んでいるんだって。

撮影/KUMA
サンディービーチパークの補給ブース。ここでおやつがもらえるのだ。

撮影/KUMA
こんな若者も休憩してました。キミたち、もしや修学旅行?

75マイル折り返し地点から100マイル折り返し地点までの道中。私の足はピンチでしたが、この景色に励まされた。動画でお楽しみください!


100マイルの折り返し地点、スワンズィービーチパーク。あと残り半分。ここまで来れば大丈夫だねえ、ということで記念写真パチリする人多し。

撮影/KUMA
折り返し地点をすぎたところでカメラマンのKUMAさんに出会う。このへん景色すばらしい!
私の愛車デローザ号。

ハワイで買ったボトルホルダー。けっこう水がぶ飲みするのでボトル2本つめるのは便利だす。

日本出発前夜に油まみれで交換したカンパニョーロのホイール。以前使っていたマヴィックのホイールよりも、カラカラ音がしずかでなかなかよろし。タイヤも新品に。空気さえ入れすぎなければ、このタイヤは全然パンクしない。すごく丈夫。

撮影/KUMA
16:06ついにゴール。いやー、やっぱうれしいな〜。もっともっと走りたいと思いました。総行時間6時間43分。平均速度23.2q/h。最高速度61.5q/h。体重は、2日間ハワイで肉ばかり食べて140パウンドあったが、試合後は133パウンドに。1パウンド=453gだから、約3s減り、日本出発前の体重に戻った。

試合後に計量する山本氏。レース前よりなぜか、体重が増えた。

同じく大塚氏。試合前と同じ147パウンド。160kmも走っているのに……。自転車ではやせないのか?



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