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タイヤに画鋲を刺したのは誰?

●タイヤに画鋲を刺したのは誰?
 センチュリーライドの取材は、とても楽しいものでした。100マイル(160km)を無事完走できたし、スチュワーデスとの食事会もありました。
 しかしただひとつ、不可解な事件があったのです。
 それは、ライド本番の前日のことでした。
 その日、私とライターのヤマモト氏と編集のスミカワ氏の3人は、朝6時に起きて、自転車の朝練に出かけました。ワイキキビーチの西にある景勝地、ダイヤモンドヘッドを1周するというコースです。晴天のもと、気持ちのいいライドを終えた私たちは、11時ごろワイキキ・マリオットリゾートに戻りました。このホテルは、部屋に自転車を持ち込んでよかったので、私は自転車を転がして自分の部屋の前までやってきました。
 すると、タイヤの上に何か金色に光る物体が見えます。画鋲でした。日本でよく見るあのくすんだ金色の画鋲です。タイヤの中心に深く深く、そしてまっすぐに刺さっていました。何者かが手で刺したとしか思えません。画鋲を抜くとタイヤの空気はあっという間に抜けていきました。
 私は、シャワーも浴びずにタイヤのチューブ交換にとりかかりました。本番でパンクしたときのことを考えてパンク修理セットと予備のチューブ2本(スペシャライズド製1本735円)を持ってきていたのです。前日に予備のチューブを1本使ってしまうとは、予想外の、そして痛恨の出来事でした。
 さて、昼食を食べにホテルのロビーへ降りていくと、ヤマモト氏とスミカワ氏はすでに集合していました。なにやら談笑しています。
 私は努めて平静を装いながら、タイヤに画鋲が刺さっていたことを報告しました。
「オ、オレ刺してないよ〜」
 ヤマモト氏が、即座に反応してきました。怪しいではありませんか。私はまだ、人間が刺したようだとはいっていないのです(ただし、画鋲が明らかに日本製であり、刺し方があまりにもきれいなため、私は画鋲が人為的にさされたものだとほぼ確信していました)。
 画鋲刺しの犯人は、このヤマモト氏にまちがいありません。犯行の動機は、センチュリーライドで私に負けたくなかったからでしょう。
 ヤマモト氏は、かつてBMXの日本チャンピオンであり、40代になった今もその脚力に衰えはありません。ハワイに出発する前から、自分が一番早くゴールするだろうと公言していました。なおかつ、ヤマモト氏の自転車は、数十万円するポルシェの高級ロードバイクです。8万円代のクロスバイクに乗る私には、当然負けるはずはなかったのです。
 ところが、朝練での私の好調な走りを見て、にわかに勝利の確信が持てなくなったにちがいありません。その不安からでしょうか、朝練前後にはアミノ酸をがぶ飲みしていました(アミノバイタルという粉末を水に溶かして飲むと筋肉の疲れがあっという間にとれるらしい。一種のドーピング?)。
 しかし、前日までのヤマモト氏の行動を考えると、ヤマモト氏犯人説もやや揺らいできます。というのも、ヤマモト氏は、自転車のパッキングのコツを教えてくれたり、ハワイの交通ルールを教えてくれたり、ホノルルの自転車屋(「MCCULLY BICYCLE & SPORTING」2124 South King St./「BIKEFACTORY」740 Ala Moana Blvd./「THE BIKE SHOP」1149 S.KING St.)に連れて行ってくれたり、ディレイラーの調整をしてくれたりと、とても親切だったのです。あんなにいい人がなぜ……。
 そこで、もうひとりの犯人が心に浮かんできました。編集のスミカワ氏です。
 スミカワ氏は、おそらくそれまで順調に進みすぎていたハワイ取材にある懸念を抱いたのでしょう。このままなにもハプニングがなければ、ライター・オオツカは、おもしろい原稿を書けないであろうと。そうした編集者としての行き過ぎた気遣いが、画鋲刺しという暴挙につながったのではないかと思われます。もしくは、スチュワーデスに目がくらんだ可能性もあります。というのも、出発前に大会スポンサーの広報T氏が、冗談で「3人のうち一番早くゴールした人がスチュワーデスとデートできます」といっていたのです。スミカワ氏は、これを真に受けたのかもしれません。思えば、ハワイに着いてからというもの、スミカワ氏は、私の体重を増やすために、盛んに肉を食べさせようとしていました。現実に私は、初日にドライブインの粗悪な肉を大量に食べさせられたおかげで、胃がもたれてしまったのです(本番前日は、牛肉ステーキの勧めを断り、魚を食べた。ハワイ名物の「マヒマヒ」という魚で、日本でいうシイラのこと。白身でさっぱりとした味)。
 ともかく、犯人は見つからぬまま、本番になりました。結果は、1位ヤマモト氏、2位スミカワ氏、3位私です。私は3位でしたが、完走できたことで満足しています。センチュリーライドは、レースではないのですから……。

大塚 真。ライター・29歳。
隣にあるのが私の愛車、マリーンのルーカスバレー。1日目の朝練で登ったタンタラスの丘で記念撮影。写真の色がぼやけているのは、「110(ワンテン)」という昔の小さなフィルムで撮ったから。ホントはもっと海も空も青い。
タンタラスの丘から見たダイヤモンドヘッド。右の町がワイキキのリゾート地。
朝練で立ち寄ったダイヤモンドヘッドの下のカハラビーチ。朝は人が少なくて静か。

画鋲事件のひとりめの容疑者ヤマモト氏。アミノ酸の力かどうか知らないが、3人の中でぶっちぎり1位でゴールした。

画鋲事件のふたりめの容疑者スミカワ氏。取材でスタートが遅れたたにもかかわらず70マイル地点で私を抜いた。

スチュワーデスの取材をする私。これがスミカワ氏の嫉妬を買ったか?

私がドライブインで食べた「ミックスプレート」。7ドルくらい。まずくはないが量が多すぎて胃にもたれた。

●スチュワーデスと夜のデート!?
 大会のあとは、広報T氏の開いてくれた食事会に出席しました。テーブルに着くとスチュワーデス3人がすでに座っています。みな超一級の美人です(最近はスチュワーデスのことをキャビンアテンダントというそうですが、当日の高揚感を表現するためには「スチュワーデス」という言葉を使わなければなりません)。
 まず、私の隣りに座ったスチュワーデスのHさんがビールをお酌してくれました。美女にお酌をされることに慣れていない私とスミカワ氏は、オドオドした態度をとりはじめました。そして、なにを思ったかスミカワ氏は、手酌でビールを飲みだします。
「ぼ、ぼ、ぼくらは手酌部なんですよ。ビールは手酌と決められているのです。みなさんも手酌部に入りませんか? は、は、は」
 このスミカワ氏のわけのわからない機転によって、私たちは落ち着きを取り戻すことができました。スチュワーデスさんたちは、珍獣と同じ檻に入れられたような戸惑いの表情を見せながらも、そこはさすがサービス業、やさしい笑顔を振りまいてくれるのでした。
 宴も佳境に入ったころ、私は3人のうちのひとりを外に誘いだしました。夜のワイキキビーチはとても静かです。星が大きく見えます。ココ椰子の甘い香りがします。どこからかやさしいウクレレの音色が聞こえてきます。なんともロマンチックな夜でした。
「160キロも走るなんてステキ」
「たいしたことないサ」
「ライターってステキな職業ね」
「たいしたことないサ」
「……ス・テ・キ」
「……!」
 私が目を覚ますとみんな帰り支度をしていました。どうやら私は、あまりの疲れのため、食事会のテーブルで居眠りをし、夢を見ていたようです。
 こうして私のセンチュリーライドも終わりました。そういえば、画鋲事件の真相はいまだ明らかになっていません(ホントはたぶん私が道端で踏みました。ヤマモトさん、スミカワさん、疑ってすいません)。
撮影/KUMA
憧れのスチュワーデスPart1。スタート地点にて。


撮影/KUMA
憧れのスチュワーデスPart2。25マイルの折り返し地点にて。


撮影/KUMA
憧れのスチュワーデスPart3。ゴールにて。


●センチュリーライドに必要なモノ
 さて、最後にもう少し役に立つことを書きましょう。装備のはなしです。
 自転車は、オーストリッチの「超速ファイブ」というおそらく輪行袋の中でも一番大きなものに入れました。ぶつけても壊れないように、ディレイラーのまわりや出っ張ったところはダンボールをあてがいました。多少心配しましたが、袋を開いてみると壊れた部分はありませんでした(輪行袋のほうが、飛行機に積むときかえって丁寧に扱ってもらえるようです)。ダンボールの箱で運んだほうが安全でしょうが、私は、空港までの行き帰りに運びやすさを考えて輪行袋を選びました。
 自転車は、本誌にも書いたのですが、マリーンというブランドの「ルーカスバレー」というクロスバイクです。ハンドルはフラットバーで、ディレイラーは、シマノの「SORA」、前3段、後8段。タイヤは27インチ。重量9.6s。もとからペダルにトゥークリップが付いているのがポイントです。おかげでペダルに力が伝わりやすく、スピードも出るし、疲れにくくなりました。長距離ライドにとても向いている自転車だと思います。ペダルをビンディングペダルにするのに抵抗がある人は(ビンディングペダルにするとビンディング用の靴も必要になる)、トゥークリップを買うのも手ではないでしょうか。
 この自転車は、もともとハンドルステムが長すぎてサドルとハンドルの距離が遠かったので、短いハンドルステム(神田のL-Breathで2,800円)に交換しました。これで前傾姿勢がゆるやかになって、長距離ライドがさらにラクになりました。
 新しく付けたオプションとしては、サイクルコンピュータ(CATEYE「CORDLESS7」上野のOD-BOXで4,980円)もあります。これは、前輪のリムとフォークにセンサーを付けるタイプのものです。タイヤの回転数を測ることによって、距離と速度が割り出される仕掛けになっていて、ハンドル部分のコントローラーに無線でデータが送られます。自分がいまどれくらいの速度で走っているのかわかるので、ペース配分にとても役に立ちました。
 センチュリーライドは、ヘルメット着用が義務付けだったためヘルメットも買いました。ハワイの強い日差しを考慮してひさしのついたタイプを選びました。BELLというブランドのもので、新宿のJOKER ST.で6,500円でした。
(ライター・大塚 真)
輪行袋の中身。自転車にタイヤとヘルメット等が入った袋を固定。リアディレイラーはダンボールでカバー。

ハンドルバーとフレームをつないでいるのがステム。これを短いものに変えた。

ペダルについたトゥークリップ。

サイクルコンピュータのコントロール部。液晶に走行速度、走行時間、平均速度、最高速度、積算距離、走行距離が出る。。

フォークに付けた黒いセンサーがリムに付けた丸いマグネットを感知してタイヤの回転数を測る。


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