本誌はみ出し情報


2004年6月号より



郷愁の路面電車は「水平エレベーター」へ進化するby今井恵介
フライブルクのトラム
ドイツ南西部にあるフライブルクは「環境都市」として有名だ。当然、交通手段の主役はトラム。派手な広告電車が古い通りを抜けていく。長大な7両編成!


▼路面電車はなぜ古い?
 城下町の大通りをガタンゴトン。懐かしいモーター音を響かせながら車齢40年50年は当たり前の電車がのんびり走る……。日本ではそんなイメージがぴったりなのが路面電車だ。
 しかし彼らは好きでオールドファッションしているわけではない。この国が高度成長期以来、異様な執着心で道路を作りまくり、クルマに優しい弱肉強食の交通政策をとった結末なのである。戦前から道路を走ってきた路面電車は、新しい道路の主人公・クルマに追い出された。
 渋滞に巻き込まれて苦しめば「自己責任」と突き放され、東京・大阪・名古屋など大都市をはじめ、全国の各都市で路面電車たちは走る道を追われ、線路は次々とアスファルトで覆われていった。それでも生き残った路面電車は、お客さんの支持と従業員の頑張りがかろうじて支えてきたのである。

▼欧米で進化したトラム
フランス東部、ドイツ国境に近いストラスブール市電。 郊外は「芝生軌道」を走る区間もある。
ドイツ南西部・カールスルーエの市電。 カフェテラスのすぐ脇を郊外直通の電車が通る。
 その一方、ヨーロッパでは自動車と路面電車がなんとか折り合えるように(敵対させるのではなく)総合的な公共交通のあり方を模索した。やがて電車は単独ではなく「街づくり」の担い手のひとつと位置づけられ、現在では路面電車を「誰もが利用できる水平エレベーター」として捉える考え方が主流となっている。
 路面電車といっても旧式のではなく、電車の床は限りなく低く乗降に便利なものが多くなった。従来の路面から乗れる停留場の便利さはそのまま、線路は歩行者道路も郊外も走り、また道路もクルマと分けられた専用軌道も快走する。だから深すぎる地下鉄よりむしろ目的地に早く着けるぐらいだ。

カールスルーエ市電。「歩行者ゾーン」を通れる車両は路面電車だけ。
ドイツ南西部の国境の町、ザールブリュッケン。市電は隣国フランスの都市まで直通する。
ドイツ・ツヴィッカウ市電に乗り入れてきた、フォークトラント鉄道の気動車。 カールスルーエ市電の車両は、DB(旧国鉄)へ直通している。
       
 アメリカでさえも、クルマ社会の行き過ぎで空洞化の危機を迎えた都市が各地でこの水平エレベーターを導入、これでいくつもの「都心」が息を吹き返したという。欧・米ともに現在では各地で新線開通や廃止した路線の復活が盛んになってきているが、振り返って日本ではまだ新線などほど遠いのが現状だ。
 日本はモノレールや新交通システムが突出して多い国だが、これはカネが出やすい仕組みが定められているからだ。しかし問題は建設費が非常に高いこと。それにあの林立する橋脚の醜さ! 既存の鉄道との乗り換えもたいてい不便ときている。
 これがヨーロッパ流の路面電車ならどうか。公園の中のように芝生の中に2本のレールが敷かれ、その上を静かに滑るような電車が走る。同じ線路を走れる強みで普通の鉄道線にも乗り入れ、100キロ以上の高速運転も当たり前だ。ショッピングモールで買い物をしたら、同じ平面をゆっくり走ってきた電車に飛び乗れる。お茶を飲み終わって数秒後には郊外の自宅へ向かう電車の客になることだって可能なのである。究極のシームレス(継ぎ目なし)交通だ。
 日本ではまだ「未来の風景」だが、それでも最近は国も路面電車を少しずつ認め始め、国土交通省が補助金を出すまでになった。自治体も都市再生の願いを込めて路面電車に理解を示し始めている。最近は「交通バリアフリー法」の施行で低床電車が導入しやすくなったこともあり、全国各地に新しい「低床電車」がお目見えし、各地の停留場も改良された。ようやく日本でも路面電車が脚光を浴びる時が来たのである。
ドイツ中部、カッセル市電の低床車。

同じくカッセル市電の低床車。
乗り降りしやすい作りが人にやさしい。
 

▼2000年代に入って低床電車が続々登場
ストラスブールの市電は低床車。旧市街はトラムと歩行者の通りとなっている。
広島電鉄の低床車「グリーンムーバー」。右の懐かしい車両との対比が面白い。
   
 新しく登場した電車を思いつくままに挙げてみると、まず「桃太郎の街」の岡山電気軌道に02年に導入された「MOMO」。これは水戸岡鋭治氏のデザインになる美しい低床電車で、03年度の「グッドデザイン賞」を受賞した。JRの最新特急電車のデザイナーが路面電車を手がけたことは、古色蒼然ではなく「新交通」たる路面電車の将来性を大いにアピールしたといっていい。その実現には市民団体「路面電車と都市の未来を考える会(RACDA)」の地道なPR活動が大きく寄与した。
 廃止が危ぶまれながら、第三セクターで見事に存続を果たした富山県高岡市の万葉線にも04年1月に真っ赤な新車・MLRV1000がデビューした。くたびれた車両の多かったローカル・トラムにまさに新風を吹き込んだといえる快挙。
 日本初の低床電車を導入した熊本以外の九州も元気だ。鹿児島市電が02年に鮮やかな黄色の「ユートラム」を導入、また長崎電気軌道は04年3月にストラスブールを思わせる銀色の新低床電車をデビューさせた。四国では松山市の伊予鉄道が02年3月から低床電車を走らせている。ここは「坊ちゃん列車」の小さな復元蒸気機関車が路面を走ることでも有名だ。高知市の古くて長い土佐電気鉄道(略してトデン!)には02年に3連接の低床電車「ハートラム」が登場した。日本最大の輸送実績を誇る広島電鉄では、全長30・5メートルの5連接車という長い低床電車「グリーンムーバー」がさらに増備されて頻繁に目にするようになった。

広島電鉄の「グリーンムーバー」はドイツのシーメンス+デュヴァク製。
 路面は走らないけれどトラム規格の東急世田谷線でも99年から「サザエさん電車」と話題になった新型車が活躍している。これもノンステップで幅広いドアで乗降しやすいユニバーサルデザイン。一方、都電の唯一の生き残り・荒川線は電車の床はそのまま、ホームを高くして段差をなくした。各地の特性に合わせていろいろな解決策を見出しているのだ。
 JR線の駅との接続を改善する事業も盛んに行われ、現在までに豊橋、横川(広島)、高知の停留場が大幅に駅に近づき、利用しやすくなった。全国各地の驚くほどの数の自治体や市民団体が路面電車(LRT)の研究や導入検討を始めており、JR西日本では既存のローカル線(富山港線・吉備線=岡山県)と路面電車を結んだ新LRTを立ち上げるべく検討を行っている。
 日本にもついに路面電車の時代が訪れるだろうか。
熊本市交通局(市電)の低床車。
こちらはダイムラー・クライスラー製。

熊本市電の低床車内部。
 
▼路面電車のホームページ
札幌(市交通局) http://www.city.sapporo.jp/st/
函館(市交通局) http://www.city.hakodate.hokkaido.jp/transport/
東京(都交通局) http://www.kotsu.metro.tokyo.jp
東京(東京急行電鉄) http://www.tokyu.co.jp
岐阜(名古屋鉄道) http://www.meitetsu.co.jp
富山(富山地方鉄道) http://www.chitetsu.co.jp
高岡(万葉線)  http://www1.coralnet.or.jp/manyosen/
豊橋(豊橋鉄道) http://www.toyotetsu.com
大津(京阪電気鉄道) http://www.keihan.co.jp
大阪・堺(阪堺電気軌道) http://www.hankai.co.jp
岡山(岡山電気軌道)  http://www.okayama-kido.co.jp
広島(広島電鉄) http://www.hiroden.co.jp
松山(伊予鉄道) http://www.iyotetsu.co.jp
高知(土佐電気鉄道) http://www.tosaden.co.jp
長崎(長崎電気軌道) http://www.naga-den.com
鹿児島(市交通局) http://www.city.kagoshima.lg.jp/koutuu.nsf


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本誌24〜25ページで紹介した、愛知県の「ミニミニ村」こと富山(とみやま)村。
今回は新幹線+レンタカーで行ってきた。
浜松から行くのが一番近いと思って……。
でもこれが大ハマリ。佐久間ダムまでは順調だった。
富山村まであと22キロ、というところで工事による通行止め。
かなり引き返し、迂回路を。
結局、2時間15分の予定が倍の5時間近くかかってしまった。
しかも、途中の道は落石注意ではなく“落石危険”の電光掲示がいたるところに……。
工事も多いので行く前はルートチェックをお忘れなく。
ということで、オススメなのは電車(1) 。

豊橋〜飯田を結ぶJR飯田線でコトコト行く。
富山村の最寄り駅は隣町の静岡県水窪(みさくぼ)町にある大嵐(おおぞれ)駅(2) 。
隣町にありながら利用者のほとんどが富山村民とのこと。
カワイイ駅舎(3) は林業の町らしく木をふんだんに使ったもの。
ただし、豊橋発で大嵐駅に止まる電車は午前2本、午後5本。
逆も、午前3本、午後5本と少ないから要注意。
所要時間は豊橋から2時間15分、飯田から1時間30分。

駅を出てすぐの鷹巣橋(4) を渡れば富山村になる。
電車にあわせて村営のコミュニティーバス(5) も出ているから運転手さんにご相談あれ。
勇気のある人は夏焼トンネル(6) に足を踏み入れるべし。
駅をおりて左に向かうとすぐにトンネルが見える。
これは、佐久間ダムができる前、飯田線が走っていたトンネル。全長約1キロ。暗くてサム〜イ風が吹き抜ける。
出口は見えず、岩盤むき出しのトンネルが続いている。
車で行ったけど、それでも恐かった。
1万円もらってもひとりでは歩けない。
この先は行き止まりなので、行っても戻るしかない。
恐怖を2度体験するなんて……。夏の肝試しにイチオシです!?

(本誌・サワッキー)

(1) トンネルからでてきて、すぐにトンネルへと吸い込まれていく。隣駅は山の向こうなので、乗り過ごすと悲惨なことになる。


(2) 小さいながらもこぎれいな駅舎。もちろん、無人です。


(3) 富山村の木「栃」の実で作った人形や、俳句が飾ってある。天井も高く居心地がいい。

(4) かなり立派な吊り橋。手前が富山村、向こう岸が静岡県。   (5) 富山村役場の人が運転するコミュニティーバス。バス停は特にない。   (6) 電車用のトンネルなだけに、かなり縦長で幅も狭い。対向車が来たら……アウト!?


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